藝大が問う、アートの社会的価値
一方、地域社会との共同制作も数多く行ってきたアーティストの日比野克彦学長のもと、東京藝術大学は今年3月、「東京藝術大学芸術未来研究場」の設置を発表しました。この研究場の使命は、アートの力を信じ、「新たな価値の創造や社会的課題の解決に係る実験と実践」を通じて「人類と地球のあるべき姿を探求する」こと。絵画やデザインなどの芸術ジャンルでの区分ではなく、分野横断的に学内外とのコラボレーションを創出、促進していくための機関であることが掲げられています。「新たな価値の創造」を新規事業やR&D、「社会的課題の解決」をソーシャル・ビジネスやSDGsに読み替えるならば、ビジネスとの親和性も十分に感じられるもので、実際に自治体や企業との共創や共同研究も念頭に置かれているものです。
こうした動きは、アートそのものの本質的価値に加え、そこに社会的・経済的価値を見出し、これを積極的に地域や企業活動などに接続し、社会に役立てていこうという近年の傾向にも沿ったものです。
企業が擁する創造の泉
企業側も、この数年でますますアートへの関心は高まり、日々新たな取り組みが生まれています。なかでも、今注目すべき動向は、民間企業が主導する「創造の場」です。かねてより都市にアーティストの活動空間を設けやワークショップ、現代美術ることに関心を寄せていた三菱地所が、まちづくり団体と共に2022年に始動した「有楽町アートアーバニズム(YAU)」は、都心のオフィスビルに数百人ものアーティストやアート関係者が集まる活動拠点となっています。
マイナビが今年7月に銀座に開設した「マイナビアートスクエア」は、アートを起点に人々の「仕事・人生の可能性を広げ、豊かな未来を共創すること」を目的としたスペースですが、そのこけら落としは若手のキュレイトリアル・コレクティブ「HB.」の企画による、アート作品を置かず、展覧会の概念を問い直すという大胆な展覧会でした。
続いて9月に東京駅前にオープンしたのは、リクルートホールディングスによるアートセンター「BUG」。銀座で30年以上ギャラリーを運営してきた経験を生かし、新たなコンペティションや展覧会などを通して、アーティストやアートワーカーが挑戦できる場を目指すといいます。
また、10月中には、松竹が黒川紀章のメタボリズム名建築・中銀カプセルタワービルのカプセル2基を用い、東銀座の本社隣接地に「創造活動の実験場(ラボ)」である「SHUTL」を開設。森ビルは、新築の虎ノ門ヒルズステーションタワーで企業やクリエイターの共創の場「TOKYO NODE LAB」を始動します。