望ましい「多極集中型社会」
──そもそも、なぜ地方分散型が日本にとっていい未来なのでしょうか。どのように解釈できますか。広井:いろいろな要因があると思いますが、わかりやすい例としては、47都道府県のなかで東京の出生率いちばん低くて、少子化が最も顕著です。東京に人口集中が進めば進むほど、日本全体の出生率が下がり、人口減少がさらに加速していく。人口減少は経済を含めあらゆる領域にマイナスの影響を及ぼします。そういう意味で、地方分散型が望ましいという結果が出たひとつの大きな要因は、人口減少を緩和するという点があったかと思います。
それから、私の解釈を入れた理解ですが、これからの日本は「新分散型社会」が望ましくなると思っています。新分散型社会とは、経済構造の面からも、分散型の構造になっていかざるをえない。これから重要になってくる4つの経済分野、つまり「デジタル」「医療・介護」「再生可能エネルギー」、そして農業を含む「食糧安全保障」ですが、これらの性質が分散的であることを見れば、明らかです。
AIで出てきたのは、単純な集中か分散かの二者択一ではなく、大きくは分散だけど、集中の要素が一定程度含まれているような姿です。私はそれを「多極集中」と呼んでいますが、日本に限らず、極がたくさんあって、それぞれの極はある程度集約的な構造になっている、集中と分散がうまく組み合わさった姿のパフォーマンスが高いものとなっています。
──日本の現状の方向性について、どのように見ていますか。
広井:まず、現状は一極集中かというと、必ずしもそうではありません。日本では、札幌、仙台、広島、福岡の人口増加率は近年首都圏並みかそれを上回るぐらいで、同時に地価の上昇率も高い。ですから、今進んでいるのは決して一極集中ではなくて、「少極集中」と言えるようなものでしょう。これからの望ましい方向としては、少極集中をさらに、多極集中と言えるような姿にしていくことです。これまでは「一極集中か多極分散か」という議論がありましたが、多極分散だと、今のような人口減少の時代には、低密度になりすぎて、財政的な効率性を考えても成り立たない。だから、多極化しつつ、ある程度集中しているような多極集中なのです。地方都市でいえば、20万~30万人かそれ以下でも十分賑わいがあるような姿です。
──小規模地方都市や第一次産業を再興し、多極集中型にできるでしょうか。
広井:そういう方向の芽は、今色々なかたちで出始めていると感じます。
08年をピークに人口減少社会になりましたが、人口が増加していった時代は、良くも悪くもすべてが東京に向かって集中していった時代でした。人口増加とともに人口は大都市圏に流れ込みました。今は人口減少の時代ですから、これまでとは逆の分散に向かうベクトルが強くなっていくのではないでしょうか。