ワクチン接種を受けた人は、そうでない人と比べてアルツハイマー型認知症の発症リスクが大幅に低い。これを裏づける論拠が増えており、2023年9月にも新たな研究結果が発表された。
そうなのだ。ワクチン接種には、感染症から身を守るという明白な利点があるが、それに加えて、複数の異なるワクチンの接種と、アルツハイマー病の発症率減少とのあいだに関連が見られることが、2つの大規模研究で明らかになったのだ。
では、どの程度の効果があるのだろうか?
まず、2022年8月に発表された研究は、インフルエンザワクチンに着目した。神経学者のポール・シュルツが率いるテキサス大学健康科学センターの研究チームは、全米の高齢者180万人以上を対象にデータを収集した。このうち半数はインフルエンザワクチン接種済みで、残りの半数は未接種であり、対象者の平均年齢は74歳だった。研究チームは、調査開始時点から4年間の医療記録を参照し、同期間に何人にアルツハイマー病の兆候が現れたかを調べた。
ワクチン接種済みグループでは、4年間の経過観察期間中に約4万8000人(93万6000人中)がアルツハイマー病を発症し、発症率は約5.1%だった。これは、かなりの人数に思えるかもしれない。しかし、ワクチン未接種グループでは、約8万人がアルツハイマー病を発症した。言い換えれば、インフルエンザワクチンを接種した高齢者のアルツハイマー病発症率(5.1%)は、未接種高齢者における発症率(8.5%)と比べて、40%低かったのだ。
しかも、この恩恵はインフルエンザワクチンに限った話ではないらしい。同じテキサス大学の研究チームが2023年9月に発表した新たな研究では、別の3種のワクチンの効果が検証された。三種混合(破傷風、ジフテリア、百日咳)ワクチン、帯状疱疹ワクチン、肺炎球菌ワクチンだ。
研究チームは165万人分の医療記録を検証し、このうち50万人以上が、先述の3種のうち少なくとも1種のワクチン接種を受けていた。対象者は全員が65歳以上だった。
驚くべきことに、これら3種のワクチンすべてに、同様のアルツハイマー病発症リスクを抑制する極めて有意の効果が認められた。8年間の経過観察期間中、三種混合ワクチンを接種した高齢者のアルツハイマー病発症リスク(7.2%)は、未接種者のリスク(10.2%)と比べて30%低かった。帯状疱疹ワクチンでは、接種者の発症リスクは25%低かった(接種者:8.1%、未接種者:10.7%)。肺炎球菌ワクチンの場合、接種者の発症リスクは27%低かった(接種者:7.9%、未接種者:10.9%)。
なお、この研究の対象となったのは旧型の帯状疱疹ワクチンだ。新型の帯状疱疹ワクチンであるシングリックス(Shingrix)は、2017年以降に広く普及した。研究チームは、新型ワクチンは帯状疱疹への効果がより高いため、アルツハイマー病の発症抑制効果も、より高いのではないかという仮説を立てている。