ワクチンめぐる誤情報、ペット界隈に飛び火 米国で忌避広がる

英バーミンガムで開催された世界最大級のドッグショー「クラフツ」に登場したボクサー犬(Matt Cardy/Getty Images)

ペット用ワクチンは複数の理由から非常に重要である。特に、飼育下にある動物の健康を守り、動物から人間に感染した病気が社会に蔓延する事態を防ぐためには不可欠だ。しかし米国では近年、ペットの飼い主、とりわけ犬を飼っている人の間でワクチンへの信頼が低下し、接種率が下がっている。ボストン大学公衆衛生大学院が今月発表した論文によると、犬の飼い主の53%がワクチン接種をためらっていると回答した。多くの獣医師が経験として知っていたことが初めて検証されたかたちだ。

米国の成人2200人を対象に行った全国調査の結果、論文の著者らは「犬の飼い主の一部に犬用ワクチンへの忌避(CVH)が蔓延している」と結論。それが狂犬病ワクチンの未接種をともなうワクチン忌避の増加や、エビデンス(科学的根拠)に基づいたワクチン政策への反発につながっているとしている。

ワクチン忌避の傾向が強まっている背景には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック下で、人間のワクチン接種に関する誤った情報や偽情報が拡散された影響が少なからずある。ワクチン忌避の動きや誤情報が飼い主に伝わり、ペットへのワクチン接種を遅らせたり、拒否したりする人が出始めたのだ。

米国家庭の45%が犬を飼っており、犬がかかる病気の中には人間にも感染するものがある点を考えると、この状況は人間にとっても犬にとっても大きな公衆衛生上の懸念となる。こうした病気は人獣共通感染症と呼ばれる。

ボストン大の発表の中で、論文の筆頭著者であるマット・モッタ博士は「われわれの研究で実証されたワクチン関連の波及効果は、ヒト用ワクチンの安全性と有効性に対する信頼回復が重要だという事実を浮き彫りにした」と述べている。なお、ワクチン不信の問題は数年前からじわじわと広がっていて、世界小動物獣医学会(WSAVA)は2021年3月のオンライン会議で、ワクチンを忌避する飼い主が増えていると獣医師らに警告していた。

狂犬病は今も、人間にとって致命的な脅威のままだ。世界保健機関(WHO)の推計では狂犬病により年間およそ6万人が死亡しており、ペットのワクチン接種率の低下は、公衆衛生に悲惨な結果をもたらしかねない。ボストン大の研究によると、誤情報の影響で、ワクチンを打つと犬が自閉症になる恐れがあると信じる飼い主は37%に上っていた。だが、そのような科学的根拠は存在しない

ワクチンは、命にかかわる病気や深刻な健康障害をもたらす病気からペットを守る。たとえば、犬はパルボウイルス感染症、ジステンパーウイルス感染症、狂犬病などにかかり、猫は、猫白血病ウイルス(FeLV)感染症や猫免疫不全ウイルス(FIV)感染症(猫エイズ)などにかかる。いずれも予防ワクチンがあるが、治療せず放置すれば深刻な健康合併症を引き起こし、死に至ることもある。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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