マウス実験では、骨や筋肉の老化を食い止める効果を確認
今回の論文を執筆した研究チームは、自らの理論を確かめるために「アンタゴミル(antagomir)」と呼ばれる、特定のマイクロRNAをブロックするように作られた分子に着目した。現時点では、その用途は研究のみに限定されているものの、アンタゴミルは今後、さまざまな人間の症状の治療に活用される可能性を秘めている。研究チームは、人間であれば60歳前後に相当する老齢のマウスに、のべ3カ月間にわたり、1週間に2回アンタゴミルを注射した。その後、このマウスの脾臓、筋肉、骨を分析し、アンタゴミルを投与されなかった対照群との間で、これらの組織について比較した。
顕微鏡下の観察では、アンタゴミルを投与されたマウスは、対照群のマウスと比べて著しく「若々しい」特徴が認められた。脾臓や血液の炎症が抑えられ、骨も密度が高く丈夫で、さらに筋繊維の数も明確に多かった。
具体的なデータとしては、炎症を亢進するタンパク質の血中濃度が、アンタゴミルの投与によって低下した。こうしたタンパク質には、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)、インターロイキン-1ベータ(IL-1β)、インターフェロン・ガンマ(IFN-γ)がある。
アンタゴミルを投与されたマウスでは、脾臓におけるM2マクロファージの割合が高くなっていた。これは、炎症を抑制し、組織についた傷を修復するのに役立つ免疫細胞だ。逆に対照群のマウスでは、M1マクロファージの割合がかなり高くなっていたが、これは、炎症を亢進する作用が知られている。実際、過去の研究でも、M2マクロファージが、健康な骨格筋の維持に非常に重要な役割を持つことが示されている。
今回の論文の著者たちは、microRNA-141-3pをブロックすることで、加齢に関連する炎症を抑制し、加齢にともなう筋肉や骨の衰えを緩和できる可能性を示したのは、自分たちが知る限りこの研究が最初だと記している。さらに研究チームは、新たな疑問や課題にも目を向けている。
具体的には「microRNA-141-3pの機能を抑制する物質を、今回の実験よりも長い期間投与した場合、好ましくない反応が出ることはないだろうか?」「マイクロRNAは、認知機能の低下に何らかの役割を果たしているのか? 果たしているとしたら、それはどのようなものか?」といった疑問だ。
研究結果からわかること
こうした研究ではいつものことではあるが、今回の研究は、マウスを対象としたものであり、被験者が人間ではないことは重要なポイントとして指摘しておくべきだろう。動物モデルにおけるアウトカム(医療の結果)は、人間におけるアウトカムを正確に反映するとは限らない。それでもこの研究結果は、microRNA-141-3pを標的とすることで、老化が進む体の特徴と考えられている変化の多くを抑制できる可能性があるという「原理の証明」として価値を持つはずだ。
加齢にともなう変化としては、慢性的に続く軽度の炎症、筋肉量の減少、骨強度の低下などが挙げられる。アンタゴミルは今のところ、研究目的以外の使用は認められていないが、ゆくゆくは、年をとっても健康な体を維持するために役立てられる可能性がある。
(forbes.com 原文)