加齢とともに増えるマイクロRNA、抑制して「老化」が防げる可能性

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マイクロRNA(miRNA)といわれても、名前すら聞いたことがないという人も多いだろう。聞いたことがあったとしても、それほど関心を持てなかったかもしれない。だが、マイクロRNAについての興味をかきたてるような新たな研究結果が、学術誌『Aging and Disease』で発表された。

この研究では、マイクロRNAの一種「microRNA-141-3p」が、加齢とともに増加し、それとともに骨強度の低下、慢性的な炎症の発生、筋肉量の減少などの問題が生じることが判明した。さらにこの研究結果からは、このマイクロRNAの働きをブロックすることで、加齢にともなう骨や免疫系、筋肉の劣化を防ぐことができる可能性も見えてきている。

マイクロRNAとは?

私たちの体を構成する細胞は、大半が同じDNAを有しているが、それぞれの細胞の機能はまったく異なるものが多い。これは、どのような仕組みによるものなのだろうか? 

実は、私たちの遺伝子は「オン」にしたり「オフ」にしたりすることができる。これは「遺伝子発現の調節」と呼ばれる機能で、DNAに書かれた指示(すなわち遺伝子)のうちどの部分が実際に「発現する」かを決める仕組みだ。遺伝子が異なれば、生成されるタンパク質も異なり、それによって、特定の細胞の状態や機能がかたち作られていく。

例えば肝臓の細胞は、神経伝達物質を送る必要はない。ゆえにその機能を発現させる遺伝子は「オフ」にされている。一方、ニューロン(神経細胞)は、神経伝達物質がなければ、その役割である信号の送出ができないので、この機能に関連する遺伝子が発現している。

マイクロRNAは、遺伝子発現を制御するメカニズムの1つだ。だが、遺伝子をブロックしたり活性化させたりするという、大元の部分に働きかけるわけではなく、タンパク質の生成の段階に影響を与える。

RNAの小さなかけらであるマイクロRNAは、メッセンジャーRNA(mRNA)と呼ばれるより大きな配列に結合する。mRNAは、タンパク質生成の青写真として使われる遺伝情報を持つRNAだ。マイクロRNAは、一旦結合すると、標的とするタンパク質に関する遺伝情報が含まれているmRNAの一部分を切り出すか、あるいは当該mRNAに付着することで、リボゾームがRNAをタンパク質に翻訳する反応を阻害する。

どちらの場合でも、何もなければ生成されるはずだった、標的とされたタンパク質の生成がブロックされる。ゆえに、遺伝子そのものの発現を「オフ」にした場合と同じ結果が生じるわけだ。

では、microRNA-141-3pは、どのようなタンパク質の生成をブロックするのだろうか? それは、AUF1(AU-rich RNA-binding factor 1、AUリッチエレメント結合因子)と呼ばれるものだ。AUF1は通常、mRNAの安定性の制御および生成されるタンパク質の決定に関わっている。比較的若い人の場合、AUF1は、炎症を促進する性質を持つタンパク質の生成を積極的に抑制する。こうしたタンパク質が野放しに生成されると、慢性の炎症を引き起こすおそれがある。これは、老化の典型的な症状だ。

AUF1はまた「細胞の老化」と呼ばれる、細胞が老いて正常に機能する能力を失う現象の抑制にも役立っている。特に、老化した細胞は増殖はしなくなるが、通常のように死滅することもなく炎症を引き起こす化学物質を放出する。ということは、AUF1の生成を抑制するmicroRNA-141-3pをブロックすれば、理屈の上では、細胞の老化や慢性の炎症の発症を食い止めることができるはずだ。
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翻訳=長谷 睦/ガリレオ

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