映画

2023.11.04 12:00

舞台は戦後へと遡る。国内30作目の最高傑作「ゴジラ-1.0」

山崎監督が3年の歳月をかけて、渾身の力を込めてこの「ゴジラ-1.0」の脚本に取り組んだのも、そのあたりを考え合わせると充分にうなずける。そして、その結果として、傑出した出来栄えの脚本ともなっていると言ってもよいかもしれない。

前述のように、「ゴジラ-1.0」は1954年の「ゴジラ」以前の時代、太平洋戦争末期から戦後数年の時代設定で描かれた作品で、「ゴジラ70周年記念作品」とも銘打たれているが、この間のゴジラ像にはかなりの変遷がある。

シリーズ第5作目の「三大怪獣 地球最大の決戦」(1964年)あたりから、一時期、人類の味方ともなる役回りがゴジラに与えられることになる。この作品でゴジラは、ラドンとモスラを従えて、宇宙から飛来した3つ頭のキングギドラと戦うことになる。

それとともにアイドル化もしていき、第6作目の「怪獣大戦争」(1965年)では、当時流行していた赤塚不二夫の「おそ松くん」に登場する「シェー」というギャグも、ゴジラが披露している。もちろんそれとともに、ゴジラに対する恐怖感がかなり薄れてしまったのも確かだ。

ただ「ゴジラ-1.0」は、そのように擬人化していったゴジラからはまさに原点へと戻り、第1作の「ゴジラ」に回帰している。ハリウッド版「Godzilla」のような恐怖を増長するようなフォルムで、破壊の限りを尽くす。戦争で傷ついた戦後の日本を、さらに「0」に戻す勢いなのだ。

走る電車をも破壊するゴジラ ©2023 TOHO CO., LTD.

山崎監督自身も、「-1.0」の意味を、「戦後でゼロの状態になった日本がゴジラによってさらに悲惨な状況に陥るなかで人々がどう立ち上がるのかなど、いろんな意味を感じていただければいい」と言及している。

また怪獣映画の枠を超えた人間ドラマもたっぷり盛り込まれており、特に作品のなかでは、神木隆之介が見事な主人公役を演じている。復員兵である主人公・敷島の心の葛藤を細やかな演技で表現している。神木を主人公に起用した製作陣の深謀遠慮さえ感じさせる。

主人公・敷島浩一を演じた神木隆之介の演技が印象深い ©2023 TOHO CO., LTD.

「ゴジラ-1.0」は、過去に観てきたゴジラ映画のなかでも、最高傑作に近い作品かもしれない。「-1.0」に込められたメッセージ性ととことん脅威を再現したリアルなアクションシーンがバランスよく配された作品となっている。そういう意味で、まさに「ゴジラ70周年記念作品」にふさわしい、東宝映画でいちばん有名なスターの代表作となるにちがいない。


「ゴジラ-1.0」は、2023年11月3日(金・祝)から全国東宝系にて公開中 ©2023 TOHO CO., LTD.

連載:シネマ未来鏡
過去記事はこちら>>

文=稲垣伸寿

ForbesBrandVoice

人気記事