教育

2023.11.09 16:30

ホームレスや引きこもりが畑で活躍 人を再起させる「農スクール」とは

「NPO農スクール」代表理事 小島希世子

今、日本の農業では、労働力不足・後継者不足が深刻な問題だ。地方の農家は特に働き手を求めており、空き家も安く借りられる一方で、都会では働く意欲はあるのに仕事も家もない。たとえ農業をやってみたいと思っても、挑戦できる機会もない。
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農業の基礎を身につけるプログラムを提供し、双方をマッチングできればみんながハッピーになれるんじゃないか──。そう考えた小島は、2011年から、ホームレスを受け入れる就農支援プログラムをスタートさせた。

畑で自信と笑顔を取り戻すホームレス

その道のりは、もちろん前途多難だった。夜型の生活が抜けずに畑で昼寝をしてしまう人、お酒を飲んでしまう人、人間関係のトラブル……。想像を超える問題が次々に起こった。元々人付き合いが器用な方ではない小島は、彼らと信頼関係を築くのに苦戦することもあった。

ホームレスの人たちはネガティブな偏見を持たれがちだが、彼らの中にも労働意欲の高い人はいるし、100円のジュースさえ人からもらうのを嫌がる人、お別れに手作りのプレゼントをくれる人まで色々な人がいる。それは家も仕事もある人にも、心が荒んでいる人や孤独な人がいるのと変わらない。彼らに対して「ホームレス」という色眼鏡を外し、同じ1人の人間として向き合うことを、彼らと接する中で小島自身も学んでいった。

そうして畑で一緒に過ごすうちに、最初はうつむきがちで表情も乏しかった彼らの顔つきが変わり、笑顔が見えるようになってきた。
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農作業を通して人から「ありがとう」と言われ、労働の対価としてお金を得る。人からも野菜からも「必要とされている」ことを実感できる。何かの役割を得ることは、自分の居場所を得ることであり、自分の存在価値を保つことにもつながる。みるみる変わっていく彼らの姿を見て、小島は「この道は間違っていない」と確信した。

生きづらさを感じている人こそ、農業を

人生に行き詰まり、生きる希望を失いかけている人が、農作業を通じて少しずつ本来の自分らしさを取り戻していく。それは農スクールに限らず、体験農園でもよく見かける現象だという。

反抗期真っ盛りだった中学生の男の子が、農園に来るようになってから落ち着きを見せ、物に当たらなくなった。ストレスで気分が塞ぎがちだった人が、畑で体を動かすようになってから気分も体調も良くなった。家族で畑に来るようになってから会話が増えて、家族の関係が良くなった。そんな変化が畑のあちこちで起きている。
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文=水嶋奈津子

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