教育

2023.11.09 16:30

ホームレスや引きこもりが畑で活躍 人を再起させる「農スクール」とは

「NPO農スクール」代表理事 小島希世子

現代社会に疲れた人、人間関係に傷ついた人にとって、農作業は癒しになる。自然の中で土や風、虫たちと向き合っていると、ストレスから解き放たれて肩から力が抜けていく。するとイライラして人に強くあたりがちだった人が穏やかに話せるようになったり、全然人と話さなかった人がぽそっと身の上話をし始めたり……。畑仕事には人間関係のリハビリ的な効果もあるのかもしれない。
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もちろん体力的にしんどい仕事もあるが、自分のペースで働けるのも農業の大きな魅力のひとつだ。畑の規模や野菜の種類を調節しながら、無理のないやり方を選べば、農業は一生続けられる仕事や趣味にもなる。一般企業ではリタイアとされる60代は、農業ではまだまだ働き盛りで、80代で現役という人も少なくない。太陽の下で体を動かすことで足腰も鍛えられ、心身の健康にも良い影響があるという。

「NPO法人農スクール」誕生へ

「より多くの人を受け入れられる体制を作るためにも、事業をスケールさせていかないといけない」そう考えた小島は、自身の構想の可能性を探るべくビジネスコンテストに挑戦。試行錯誤して作ったビジネスプランは、「横浜ビジネスグランプリ 2011」でソーシャル部門の最優秀グランプリを受賞した。

手応えを掴んだ小島は、続けて「雇用創造事業 社会企業プラン・コンテスト」でも大賞を受賞。起業を志す人、ソーシャルビジネスに関心のある企業や団体が多く集う場で、新たな支援団体とも繋がり、ボトルネックになっていた住居問題を解決する糸口も見つかった。それらを追い風に、2013年、「NPO法人農スクール」を設立した。

うつ病も引きこもりも。みんなを受け入れる農園に

ホームレスだった彼らが農家に就職していく事例は、やがて「ホームレス農園」としてメディアに取り上げられ、さまざまな支援団体や自治体から声がかかるようになった。すると今度は、生活保護受給者、うつ病や引きこもりで苦しんでいる人からも「参加したい」という相談が舞い込んだ。

「人は努力すれば変われる」「人生は何度でもやり直せる」「農業には人生を再生する力がある」ことを、小島は共に働きながら教わってきた。ホームレスや引きこもりの多くが、過去の挫折経験や心無い言葉によって、「自分は負け犬だ」「役立たずだ」と思い込まされてしまっている。自分自身に失望している彼らに、農業を通して再び自信と気力を取り戻してもらうことは、小島には必然的なミッションであるように感じられた。

合わない環境で生きづらさを抱えていた人たちも、農業でなら自分の居場所を見つけることができるかもしれない。日本の農業を支える人材として活躍できるかもしれない、いや、きっとできるに違いない。活動の中で「農」の可能性を確信した小島は、さまざまな働けない理由を抱える人にもその門戸を開いていった。
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文=水嶋奈津子

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