『ビヨンド・ユートピア 脱北』を観る人は、エンターテインメントを消費する者としてではなく、自らもまた、一党独裁政権の国から脱出を試みているような気持ちになるだろう。
北朝鮮との国境近くにある中国の森の中で、助けを請うロー一家の姿を目のあたりにし、キム・ソンウン牧師の支援がなければ死ぬしかないと話す姿を目にすれば、彼らの絶望を肌身で感じるだろう。ベトナムに向けて中国国内を車で移動しながら、捕まるのではないかと恐れ続けるロー一家の恐怖を、自分自身の恐怖として感じるだろう。安全な隠れ家にようやくたどり着いたときには、彼らの安堵を自分のことのように感じるだろう。
東南アジアの山中を移動しているさなかに、すぐそばを車が通りすぎるときには、ロー一家と同じように息をひそめるだろう。ラオスからタイに入るためにメコン川を渡るときは、彼らと同じく、溺れるのではないかと気が気でないだろう。安全な韓国にたどり着くために経由しなければならないタイ行きのボートでは、彼らが自由を望むように、あなたもまた自由を切望するだろう。
ロー一家が安全な目的地へと無事にたどり着けるかどうかは、映画を観て確認してほしい。すべての物語がハッピーエンドを迎えるとはかぎらない。
北朝鮮の専門家で、同映画プロデューサーの1人でもあるスー・ミ・テリー博士は、こう述べている。
「本作は、自由を求める北朝鮮出身の一家が、中国、ラオス、ベトナムの危険で険しい山中を移動する様子を追った、初のドキュメンタリーだ。第一級のスリラー映画のように、思わず身を取り出してしまうが、すべてが真実なのだ」
さらにテリーは、こう述べている。「私は、米中央情報局(CIA)で分析官として働いていたときに、脱北者についてのデブリーフィングを何度も行なったし、脱北者を支援する地下ネットワークの仕組みも、情報としては理解していた。しかし、実際の脱北の過程を目にしたのはこれが初めてだ」
『ビヨンド・ユートピア 脱北』は、2023年10月23日と24日に、米国の一部の劇場で公開された(日本では2024年1月12日に全国公開予定)。
北朝鮮について詳しいか否かにかかわらず、すべての人に向けた作品だ。自由という大義に関心がある人必見のドキュメンタリー映画といえるだろう。
(forbes.com 原文)