映画

2023.11.01 15:00

脱北する北朝鮮家族を追う映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』で描かれる真実

Getty Images

朝鮮半島が南北に分断されて以来、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)で暮らす人々の様子はほとんどベールに包まれたままだ。最高指導者である金正恩総書記が率いる政権の核兵器やミサイルの開発プログラムが注目を集める一方で、庶民の暮らしぶりはあまり見えてこない。

その理由の1つは、武器は目に見えるものであり、金政権がこれ見よがしに誇示し、その威力を見せつけているからだ。それに対して、庶民の暮らしはいまだに謎のままで、北朝鮮国外で入手できるごくわずかな写真や動画から、彼らが困窮する様子が見てとれる状態だ。

そうした状況を一変させるのが、ドキュメンタリー映画『ビヨンド・ユートピア 脱北』だ。


この映画には、韓国の牧師キム・ソンウンが登場する。牧師は、自由を求めて脱北する北朝鮮の人々を助けることは、神が自らに与えた使命だと考え、一生を捧げている。

映画は、金政権の支配下にある北朝鮮からの脱出を試みる5人家族、ロー一家の道行きと、北朝鮮に残してきた息子との再会を誓う脱北者の母親リー・ソヨンを追う。

『ビヨンド・ユートピア 脱北』は、世界の見方をがらりと変え得る作品だ。外にいる人間に、北朝鮮で生きることがいかに困難で苦しいことなのか、その実状を垣間見せているからだ。

筆者は一般公開に先駆け、米国のシンクタンク「戦略国際問題研究所(CSIS)」が主催した試写会で、この作品を鑑賞した。北朝鮮における人権問題を10年以上にわたってチェックしてきた人間としては、いまさら驚くことなどほとんどないだろうと考えていたが、それは間違いだった。

北朝鮮政権による人権侵害は、十分に裏づけが取れている。その状況を特に詳しく解説しているのが「北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)」が2014年に発表した、およそ400ページのレポートだ。北朝鮮政権による人道的犯罪行為が詳述されている。

北朝鮮国内で、現代版の強制収容所に抑留されている人々は、推定で8万人から12万人に上る。成人・未成年の女性は、さまざまな種類のレイプや性的暴行にたびたびさらされており、食糧不足は常態化している。

また北朝鮮の庶民は、民主主義国家で暮らす大半の人々とは異なり、自由がない。先述した国連リポートにもある通り、北朝鮮における人権侵害は、この現代において「ほかに類をみない」ものだ。
次ページ > 日本では2024年1月12日に全国公開予定

翻訳=遠藤康子/ガリレオ

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事