選手発掘でもデータを活用
日本のバレーボールは基本的に、世代別の代表チームを編成し、国際大会に向けて合宿を行いながら強化されていきます。長年、小学校6年生を対象としたエリートアカデミーオーディションや、中学生を対象とした長身選手発掘育成合宿なども実施されており、実際に今年のネーションズリーグで銅メダルを獲得した大塚達宣選手はこうしたアカデミーの出身者でもあります。
アカデミーでは体力運動能力テストや身体操作・ボール操作性などを測定して評価したり、手足の長さや成長期後の予測などを含めて全国の高身長選手の情報を集約するなどして、強化育成につなげています。
このように発掘育成された選手に加えて、Vリーグや国際大会でのパフォーマンスデータを評価して、代表候補選手が選考されています。
技術革新がスポーツに与える影響にも要注目
最後に少し話題が逸れますが、テクノロジーの発展によって、バレーボール界で起きている変化について触れたいと思います。バレーボールでも国際大会において、2014年からチャレンジシステムがテスト運用を経て導入されるなど、ビデオ映像やトラッキングシステムを活用した「審判の判定支援」が段階的に推進されてきました。判定時間の短縮やフィードバックの改良といった技術革新が進み、これまでのホークアイイノベーションズ社に代わり今年からBolt6社が担うようになりました。
そうした中、昨年から今年にかけて、バレーボール史上最も大きな変革が起きています。
まずは昨年、ラインズマン(線審)が消えたことです。従来コートを囲む直線上にラインズマン4名を配置していましたが、これを廃止し、ラインに関わるイン/アウトの判定は基本的に主審が行うようになりました。各チームが疑義を持った場合に限り、各チームからのチャレンジシステムの発動により、判定確認が行われるようになったのです。
そして今年ついに、チャレンジシステムを発動できる項目から、ラインに関わるイン/アウトの判定が削除されたのです。なぜなら、ライン判定はテクノロジーにより即時に主審の耳にインカムを通じて伝えられ、ボール着弾から数秒で会場内のスクリーンにグラフィックで再現されるようになり、そもそもチャレンジシステムを発動する必要すらなくなったからです。
実は同様に、米国では数年前から野球のマイナーリーグで「Automated Ball-Strike System」(ABS:自動ボールストライク判定システム)が導入され、投球を追跡してボールとストライクを判定しています。人間の審判よりも迅速かつ正確にできると評価を得ている一方で、人間らしさのないロボット審判による誤審なども発生して、すべての選手が納得している状況にはありません。そういった背景もあり、メジャーリーグでの導入にあたっては慎重に議論されているようです。
正しく一定の基準の元に公平に判定され、即時に説得力の高い形でフィードバックされることは、競技者にとっても観戦客にとっても喜ばしいことですが、一方で、無機質で機微に乏しいテクノロジーによる判定は、不確実性の高さや感情の共有といったスポーツならではの魅力とは相容れない面もあります。どこか人間的な情緒や温かみに欠け、寂しさを感じてしまう部分も......。
これからますます進むであろう自動化の波に数年後人間が慣れた時、スポーツの魅力はどのように捉えられているのでしょうか。答え合わせをしてみたいですね。
連載:スポーツアナリティクスの世界