今大会のみならず、東京2020五輪で29年ぶりのベスト8進出、今年のネーションズリーグでも強豪ブラジル相手に30年ぶりの大金星を挙げるなど、その成長ぶりには著しいものがあります。
こうした躍進の要因について、スポーツの世界でデータを扱う「スポーツアナリスト」として約20年にわたりバレーボール女子日本代表チームを支援している筆者独自の視点で、考察してみたいと思います。
結論から言うと、なにか世界が度肝を抜くような新戦術があったわけでも、突然圧倒的な得点力を誇る新戦力が発掘されたわけでもありません。愚直に一段ずつ海外との差を詰めてきた積み重ねの結果と言えるでしょう。
例えば、リオ五輪前から一貫性をもった強化を継続できていることの影響は大きいと思います。
現男子強化委員長である南部正司氏が当時代表監督を務め、積極的に若手選手を起用して代表チームの代謝と強化を進めました。「NEXT4」と称し、石川祐希、柳田将洋、髙橋健太郎、山内晶大の若手4選手を抜擢して育成したのも南部氏がこの頃に進めた施策です。
特に印象的だったのは、出場を逃したリオ五輪の現地に石川選手らを派遣し、オリンピックという世界最高峰の舞台でしのぎを削る戦いを目の前で観戦させて、グローバルスタンダードへの意識を醸成したことです。本来であれば、出場権のない大会に、選手を派遣するなどといったことは行いません。しかし、日本男子バレー界の閉塞感を打破するために、若くて有望な選手に敢えて出場できなかったオリンピックの舞台を直視させ、刺激を与えました。
選手たちを支える側の体制づくりにおいても、チームの方向性を定めていく過程で、常にデータや分析に基づいた意思決定を可能とする新体制が築かれ、維持されています。
2017年からスタートした新生日本代表チームで、戦術策定などを担うアシスタントコーチに世界の強豪各国での豊富な指導経験をもつフィリップ・ブラン氏を抜擢。7位に入った東京五輪では、ブランコーチとともに伊藤健士アナリスト、行武広貴アナリストが四六時中机を囲み、対戦相手の研究や次戦へ向けての準備に没頭している姿が目立ちました。
東京2020後にはパリ2024オリンピックまでの監督をブラン氏に託し、ブラン氏が務めてきたアシスタントコーチのポストには伊藤アナリストが就任、行武アナリストもそのまま留任しました。
チームとして「世界と戦う知性」がひとつひとつ丁寧に積み重ねられ、昇華できていることは大きな強みとなっています。
「データ活用」はもはや当たり前 勝敗を分ける能力とは?
バレーボールの世界でも、トップレベルでのデータ活用はもはや当たり前となっています。どの国も同じ様に相手チームの情報を集めて研究し、対策を練って試合に臨んでいます。最初に描いたゲームプランのままに試合が進むことなどほとんどありません。
そうした厳しい世界の舞台で戦い抜くには、選手たち自身がどれだけ状況判断力や柔軟な対応力をもって試合に臨めているか、またたとえ劣勢に回ったときでも相手に押し切られず、その状況を打開して追いつき追い越せるだけのレジリエンスを備えているか、が極めて重要となります。
実際、パリ五輪予選で出場権獲得を決めたスロベニア戦では大いにその力が発揮されていました。