スポーツアナリストが解く、「男子バレーボール日本代表」躍進の理由

石川祐希選手(Photo by Foto Olimpik/NurPhoto via Getty Images)


ゲームの立ち上がりは決して良い形ではありませんでした。試合開始直後から2連続サーブミスで始まり、ポジショナルフォルト(サーブを打つ時点で正しい位置にいない反則)やスパイクミス、相手のブロックポイントなどで一時1対6と主導権を完全に奪われ、いわば最悪ともいえる試合の幕開けでした。
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その後、小野寺太志選手、関田誠大選手、髙橋健太郎選手といったジャンプフローター系の戦術サーブ(直接サーブで得点を狙うのではなく、ディフェンスとの連動で得点を奪うための仕掛けを狙いとしたサーブ)を皮切りに連続得点で点差を詰めるものの、両チームのローテーションが1周回った時点では、9-12と日本チームが3点ビハインド。この間、本来相手にとって脅威となるはずの日本チームのジャンプスピン系サーブが全てサーブミス(3失点)となったことが大きな痛手でした。

これまでの日本チームであれば、こうした劣勢の場面になると、さらなるミスを恐れてサーブの威力がより衰え、相手の攻撃力を高めてしまう負のスパイラルに陥りがちですが、実際には中盤で追いつき、終盤逆転に成功しました。

具体的に何が変わったのでしょうか。
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ローテーションが2巡目に入ってくると、1巡目でサーブミスに終わっていた選手も含め、日本チームのサーブの精度が高まり、相手のウィークポイントを的確に狙ったり、強弱や前後左右への揺さぶりを織り交ぜて相手スパイカーにストレスを与えたりするなど、見事に相手のサーブレシーブを崩して攻撃力を減退させ、連続得点を重ねることに成功して追いつき追い越したのです。

まさに今の日本チームはパワフルさを備えていて、消極的なミスが少ない。そして、サーブやブロックの細かな駆け引きでじわりじわりと相手との差を詰めていくしなやかなレジリエンスを持っていることを体現した戦い方でした。

状況判断力や対応力、レジリエンスをどう育てたか?

海外選手との体格差をどのように克服するか、についてもよく話題に上るテーマですよね。

バレーボールの場合、チームの平均身長を見ても、高さの面で日本は海外チームと同等のレベルにあるとは言えません。だからこそ、持ち前の精密さや献身性、連携、団結などをベースに、組織として工夫して戦う必要がある、というのが日本バレーの定石です。

この工夫の部分で監督の色が出てくるものですが、実は根本的な戦い方は今も昔も大きく変わっているわけではありません。

ただ近年、代表チームに限らず、Vリーグでも外国人指導者が増える中で、ゲーム性の高い練習が多く取り入れられ、事前に「インプットした情報」をもとに、選手たちが試合中に駆け引きする力や思考の柔軟性が高まっていると言えます。

特にバレーボールでは「連続失点しない」こと、つまり相手のサーブで始まるラリーで着実に点を取ることが、勝つために重要なポイントとなりますが、現在の日本代表チームはこの連続失点をせずに、自力で点を取る力(サイドアウト力)が他国に比べて優れています。これも強さの要因の一つです。

守備で着実に攻撃態勢を整えられるだけの間をつくり、そこから複数の選手が同時に攻撃をしかけて相手ブロッカーを翻弄することができています。その状況から発揮される石川選手、髙橋選手らの攻撃力の高さは世界トップレベルで、今の日本代表チームの強さの根源とも言えるでしょう。

そしてそれらを生み出したのは、外国人指導者の登用によって、データに裏付けられた世界水準で設定された目標や課題に日々挑み、世界トップレベルとの戦いにおける個の経験値と自信を蓄積できていることに他なりません。
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文=渡辺啓太 編集=宇藤智子

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