──現代アートの企画もありますね。日本からは2010年に村上隆さん、2018年に杉本博司さんがヴェルサイユで展覧会を開催されています。
パンデミックの影響でここ数年は中断していましたが、現代アートとのコラボレーションにおいては、単に作品を飾るのではなく、それぞれのアーティストがどのようにヴェルサイユを解釈するのか、作家とヴェルサイユとの対話となることを大切にしています。
それは必ずしも賞賛である必要はありません。これまでにない視点を持ち込んでいただくことで、まったく新しいヴェルサイユが見られるかもしれないと期待しています。
逆に、ヴェルサイユを外に持ち出すこともあります。2016年には、東京・森アーツセンターギャラリーでヴェルサイユが監修した「マリー・アントワネット展」を開催し、大成功を収めました。あのようなコンテンポラリーな場所でクラシカルな展覧会を行うこと自体斬新だったと思いますし、我々のこうしたアクティブな提案が、国際交流にもつながっていると感じます。
──今回の森田恭通さんの写真展もそのひとつですね。この企画はどのように動き出したのでしょう?
森田さんから、ヴェルサイユ宮殿の撮影がしたい、なるべくたくさんの場所が見たいというオファーをいただいたことがきっかけです。その熱意もあり、彼は今回、普段は入ることができない場所を含め、ヴェルサイユの至るところに身を浸して撮影をされていました。数年をかけ、異なる季節、異なる時間帯を捉えています。
シャネルとのコラボレーションでいうと、2017年にも、当時のアーティスティック ディレクターのカール・ラガーフェルドが、ヴェルサイユを被写体にした写真を撮影し、ここシャネル・ネクサス・ホールで写真展を行いました。撮る方によって、ヴェルサイユがまったく違った顔を見せるのがおもしろいですね。
森田さんが見たヴェルサイユは、日々そこで仕事をしている私たちにも、とても新鮮な発見をもたらすものでした。マリー・アントワネットの浴槽を写した写真は、切り取る角度だけでこうも違って見えるのかと不思議に思います。「In Praise of Shadows(陰翳礼讃)」という展覧会名の通り、光と影のワークにオリジナリティが溢れています。