世界が陥る「反応的思考」 ノーベル賞心理学者から学ぶべきこと

イスラエル軍の空爆で廃虚と化したパレスチナ・ガザ市のリマル地区。2023年10月10日撮影(Ashraf Amra/Anadolu via Getty Images)

悪いリーダーは反応し、良いリーダーは計画を立て、偉大なリーダーは考える。今、世界は反応するばかりで、考えることをほとんどしていない。

これは危険である。なぜなら私たちは反応するとき、認知心理学者が「システム1」と呼ぶ思考モードに依存して決断する傾向が強いからだ。

思考には「システム1」と「システム2」の二つがあるという概念は、ノーベル経済学賞を受賞した心理学者ダニエル・カーネマンが2011年に出版した名著『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』によって広く知られるようになった。本書はすべての人にとって必読書だと思う。

この2つのシステムは、人間の認知の二重プロセス理論を説明する。

システム1(速い思考)は、自動的で直感的だ。意識的な努力をほとんど、あるいは全くすることなく、素早く展開する。経験則に基づいており、メンタルショートカット(精神的な近道)に頼って迅速な意思決定を行う。これは効率的な場合もあるが、しばしば先入観や判断ミスにつながる。また感情的でもあり、システム1の思考に依存している意思決定者は、気持ちや本能的な反応に左右されやすい。

皆さんも身に覚えがあるのではないだろうか。

一方でシステム2(遅い思考)は、熟慮と努力を必要とする。より複雑な精神活動に注意を向けるもので、それには意識的な努力が求められる。その結果、情報をより批判的に分析し、過去の経験をより客観的に振り返ることができる。より論理的で、問題を段階に分けて検討する傾向がある。

残念ながら、現在の地政学的領域や米国の国内政治の舞台では、システム2の思考プロセスはあまり見られない。

システム1にも役割がある。話している相手の表情をすぐに読み取れたり、突発的な音の発生源を特定できたり、熱したコンロに手を触れずに済んだりするのは、システム1のおかげだ。人類が日々直面する最も複雑な問題が、サバンナをどこまでも追いかけてくるライオンは空腹なのか、それとも友達になりたがっているのかを判断することだった時代には、このシステムが種の存続に大いに役立った。

しかし、現代の人類が直面しているのは、そのような問題ではない。

中東に平和らしきものを実現し、ウクライナ戦争を終結させ、パンデミックによる長引くサプライチェーンの混乱に対処し、気候危機に有意義な取り組みを進めるには、より知的な厳密さと、より思慮深いアプローチが求められる。

これらは、システム2の思考を必要とする類いの問題である。

カーネマンの著書から得られる主な教訓の一つは、私たちはそれぞれのシステムの限界と強みを理解しなければならないということだ。自動的な反応に頼りすぎている場合と、より思慮深い分析が必要な場合を認識することで、より良い意思決定を行えるようになる。

forbes.com 原文

翻訳・編集=荻原藤緒

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