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2023.10.13 13:00

ハマスのイスラエル越境攻撃、米国が学ぶべき安全保障上の教訓

遠藤宗生

イスラエル南部スデロットで、ガザ地区から越境攻撃を仕掛けてきたハマス戦闘員とイスラエル軍の交戦で炎上した車の残骸の近くにたたずむ男性。2023年10月8日撮影(Amir Levy/Getty Images)

パレスチナのガザ地区を実効支配するイスラム主義組織ハマスがイスラエルに越境攻撃を仕掛けた衝撃を、米国が2001年9月11日に経験したトラウマと比較する見方がある。イスラエル政府にとって10月7日の奇襲は、全くの想定外だった。イスラエル情報機関の能力と、ハマスが暴力的な思想を持った武装勢力であることを考えると、この点に説明をつけるのは難しい。

これほどの大惨事がどうして起こり得たのか。そして、イスラエルはどう対処すべきなのか──。それらの整理には時間がかかるだろう。人質が取られたことで政治的危機が長期化し、サウジアラビアやイランといった中東の大国と米国との関係に深刻な余波が広がる可能性もある。

イスラエルのトラウマが米国内の安全保障方針にどんな影響を及ぼすかという観点は、これまでほとんど議論されていない。両国の地政学的状況はまるで異なるが、政治体制、文化的特徴、経済発展の水準には類似点がある。共通の敵もいる。

そこで、現在の危機の形は米国内安全保障にどのような結果をもたらし得るのかを検討してみよう。

破壊的な党派性

イスラエルでは、昨年末にベンヤミン・ネタニヤフ首相が6期目の任に就いて以来、大規模な抗議デモと党派抗争が続いていた。軋轢(あつれき)の焦点はネタニヤフが推進する最高裁判所の権限を弱める司法改革だが、根底にはユダヤ人国家の政府の在り方をめぐる深い分裂がある。この論争により、政界では政治が取り組むべき他の政策課題への注意がおろそかになっており、国家安全保障の必要性もおそらく見過ごされてきた。

米紙ワシントン・ポストのコラムニスト、デービッド・イグナティウスはハマスが越境攻撃を行った翌日の同紙コラムに、イスラエルは「40年以上取材してきた中で見たことがないほど分裂していた」と記している。今日の米国の政治文化の状況についても、同様の評価を下せるだろう。

党派的論争は民主主義国家ではよくあることだが、見解の相違が大きくなりすぎると、政府機能が損なわれる。

たとえば、共和党のトミー・タバービル上院議員が米軍高官人事を保留しているため、米軍では300人以上の将校が次の任務に就けずにおり、中東担当の高官職にも空席が複数生じている。タバービル議員の人事遅延工作は、安全保障とは無関係の国内政治問題に由来するが、安全保障に明白な影響を及ぼしている。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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