これは良い知らせではないが、特に悪いというわけでもない。39光年先からの大気の信号を見つけるのは簡単ではないため、初期の研究では、トラピスト1系にある惑星の観測に主星がどのような影響を及ぼすかを知ることに重点を置いている。「今のうちに主星の取り扱い方法を考えておかなければ、ハビタブルゾーンにある惑星のトラピスト1d、e、fを調査する際に、大気の信号を確認するのが非常に難しくなる」と、マクドナルドは指摘する。恒星のハビタブルゾーンは理論上、惑星の表面に液体の水が存在できる範囲とされる。
「ゴースト信号」
トラピスト1を公転する惑星の存在は、惑星が主星の前を横切る際にしか確認できない。今回の研究では、透過分光法と呼ばれる技術を使用し、トラピスト1bの大気を通過した主星の光をJWSTのNIRISSで分解した。この光には、惑星の大気中に含まれる分子や原子の痕跡があった。だが、この痕跡は実際には、星の光に見られる多数の「ゴースト信号」だった。これは主星自体の黒点や白斑(はくはん)に由来するものと思われた。このデータは、今後の研究で、トラピスト1系の惑星の大気中に特定の分子を検出したと早合点するのを防ぐことに役立つかもしれない。
フレア現象
トラピスト1系と太陽系との大きな違いは、その主星だろう。トラピスト1は、太陽類似星よりもはるかに一般的な恒星である赤色矮星だ。トラピスト1bは、地球が太陽から受ける放射の4倍のエネルギーを受けており、表面温度が120~220度に達していることを、研究チームは明らかにした。なので、ハビタブルゾーン内には存在していない。赤色矮星は、太陽に比べて挙動が予測しにくく、このことが生命体に影響を与えることも考えられる。研究を主導した、カナダ・モントリオール大学トロティエ太陽系外惑星研究所のオリビア・リムは「今回の観測では、恒星フレアが確認された。これは予測不可能な現象で、発生時には主星が数分から数時間の間、増光するように見える」と話す。「フレアは、惑星によって遮られる光の量の測定に影響を及ぼした。データの正しい解釈を確実にするには、フレアの影響を考慮する必要がある」