よりよい看護を見つめ直すために首都大学東京の大学院に進み、さらに3人の子を育てながら名大大学院で博士号を取った。でも、新家さんや佐々木さんと出会い、横浜市のこどもホスピス「うみとそらのおうち」(21年開設)のメンバーと交流も生まれたことで、畑中さんには大学教員としてのキャリアアップ以上に、やりたいことができてしまった。
「存分に生きる、を一緒に」
ことし4月に設立したNPO法人愛知こどもホスピスプロジェクトは、代表の畑中さんと、前回紹介した患者遺族の理事・安藤晃子さん(46)が専従スタッフとして、日常業務を推進している。佐々木さんと新家さんは副代表の立場だ。
キャッチフレーズは「存分に生きる、を一緒に」。
生命にかかわる重い病気や障害のある子が、発症時から利用できて、医療者などの見守りを受けながら遊んだり、家族で宿泊したりといった機能を目指している。「存分に」は、国連子どもの権利の精神である「子どもたちが健康に生きて、存分に学んで、自由に活動し、守られ援助されながら成長する権利」を基に決めた。
地元の応援企業も少しずつ増え、名古屋市名東区に事務所を構えた。大口の出資予定者が「方針の違い」を理由に撤回するという事件が起き、建設計画はいったん白紙になったが、その分、自分たちの思いを実現できる施設を目指して実績を積もうと啓発活動を続けている。5月には、山梨県の「星つむぎの村」の協力を得て、金城学院大学(名古屋市守山区)で「出張プラネタリウム」を開催した。直径7メートルの特設プラネタリウムで、床に寝そべりながら、無数の星たちの世界に浸れるバリアフリーイベント。小児がんや心臓病、遺伝性難病の子ときょうだい、保護者ら17組、53人が交代で楽しんだ。
今後も、木の遊び場プロジェクト、ソーセージ作りやバーベキューなどのイベントを予定している。寄付金の税制優遇を受けられる認定NPO法人になったら本格的に建設資金を募る計画だ。
与党の国会議員有志でつくるこどもホスピス支援の議員連盟が昨年11月に生まれ、こども家庭庁が支援拡充に向けた実態調査に乗り出すなど、時代の追い風が吹いているが、寄付以外の収入が見込めない施設を設立・運営していくのは、並大抵のことではない。闘病の子どもたち、そのきょうだいが存分に生き、親を含めた家族の尊厳が確保される世界を、という願いが、関係者たちの熱意を支えている。
同プロジェクト顧問の高橋義行・名古屋大学小児科教授は「小児がんをはじめとする小児難病の中には、どうしても救えない救命できない命がある。助けられても、重い後遺症に苦しむ子もいる。闘病する子どもとそのご家族にとって、少しでも安らぎのひと時が得られるような施設が愛知県にもできることを願って応援している」と話す。
全国各地で芽吹き始めているこどもホスピス運動。議員連盟と同じく昨年11月に発足した全国こどもホスピス支援協議会には、愛知のほか、北海道、宮城、千葉、東京、神奈川、福井、奈良、大阪、福岡、沖縄などの15団体が所属する。ことし秋に札幌市で開かれた日本小児血液・がん学会学術集会では、全国から集まった関係者が交流した。開催地・札幌市もこどもホスピスの開設支援に乗り出すことが報道され、確実に大きなうねりになりつつある。
(こどもホスピス前編・後編=終わり)