「脱成長」を掲げる街、パリに学ぶ。広告費ゼロでも大人気のスニーカー?

田中友梨
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欧州最大の都市農園「NATURE URBAINE」で学ぶ、都市の生物多様性

パリ15区にある、巨大な見本市会場「ポルト・ド・ヴェルサイユ」の建物のうちの一つの屋上にある、「NATURE URBAINE(ナチュール・ユベンヌ 以下、NU)」には、欧州最大の屋上都市農園がある。採れた野菜は近隣のレストランやスーパーマーケット、社員食堂にも販売。近隣のレストランで、NUで採れた野菜を味わった後、農園を訪問した。

1万4000平米という広大な屋上を活用してできた農園は、ただ巨大なだけではない。その特徴は、テクノロジーである。「エアロポニックス」や「ハイドロポニックス」と呼ばれる、土を使わない水耕栽培・空中栽培を行うことで、通常の農業のおよそ10%の水の量で作物を育てており、無駄をなるべく出さない農法を実践。

また、都市で出た廃熱や、有機廃棄物など不要なものを循環させている。さらにNUではパリ近隣の人々に向けてシェア畑のレンタルも行っており、庭師からアドバイスももらえる仕組みを導入。コロナ禍ではその全ての区画が埋まっていたという。
農園を案内してくれたNUのFloreさん

「北フランス出身で、伝統的な農場で働きたかった私は、最初はこうしたテクノロジーを使った生産には反対でした。一方でフランスの農業は労働環境などで複雑な問題を抱えており、私はNUで『都市における解決策は何か』に注目しました。完璧であるとはいえないかもしれませんが、ひとつの代替案であるともいえます」

農園について学んだ後、ツアーでは「シードボール」づくりを体験。シードボールとは、種子、粘土、良質な土を混ぜて作る小さな球状のもので、都市環境に植生を導入するためのツールだ。これらの球体を適切な場所に投げ込むことで、種子は発芽し、花や他の植物が生えてくる。荒れ地や放棄された土地などに緑を戻すためのゲリラガーデニングの手法としてよく使われる。

「今日、皆さんはグリーン・アーミーになります」と、Floreさんは私たちに向かって微笑んだ。
シードボールをつくるワークショップ

「グリーン・アーミーには3つの目標があります。第一に、このシードボールで生物多様性を増やすこと。鳥のために特別に作られた種によって鳥や昆虫が増えます。第二に、都市が抱える暑さや汚染を解消すること。この農場がそうであるように、植物には都市をリフレッシュさせる力があります。第三に、都市景観を保つことです。あなたは灰色の壁を見たいですか?私は、花を見る方が好きです」

実はシードボールの概念は、日本の農学者である福岡正信氏(自然農法・無農薬栽培の提唱者として知られている)によって広く普及したものなのだという。パリでよく見かけるこのシードボールの発祥が、日本の農学者だったというのも面白い。
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文=IDEAS FOR GOOD Editorial Team 写真=Masato Sezawa

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