廃線になった駅の校舎をリノベーションして作られたLa REcyclerieは、パリ18区のクリニャンクールという、経済的に豊かではない人々も暮らす郊外の街にある。
「La REcyclerieができた10年前は、都市部であってもこうした庶民的な地区でサードプレイスをつくるという試みは斬新なことでした。けれどそういう場所で環境問題について話し、興味のない人の意識を高めていくことに意味があると感じ、この場所を選んだのです」と、コミュニケーション担当のMargotさんは言う。
La REcyclerieでは、食事をする人、休憩する人、友人との時間を楽しむ人、仕事をする人など、多様な人が集まる。
季節の食材を提供する食堂スペースや修理ができるDIYスペース、近隣住民が生ごみを持ち寄りコンポストができるシェア農園など、多くの機能を備えているLa REcyclerie。この多様なビジネスモデルが重要なのだと、Sinny&Ooko創業者のStéphane Vatinelさんは言う。
「大切なことは、私たちは何かのエキスパートになろうとしているわけではないということ。一人でも多くの方々が、カフェに来てみようと思ったり、修理をしてみようと思ったり、コンポストに生ごみを入れようとここに足を運んでくれる。その人がまた次の人を呼んでその輪が広がっていく。
いろいろなプロジェクトがありますが、一つのプロジェクトを極めることには関心がありません。今年間20万人の人がLa REcyclerieを訪ねてくれていますが、もしイベントだけをやっている場所だったら、5万人で止まっていたかもしれませんね」
La REcyclerie Sinny&Ooko代表のStéphane Vatinelさん
いま、世界が進めているグローバリゼーションによってうまれた課題の解決策が、サードプレイスなのではないかと話すStéphaneさん。
「グローバリゼーションによって、先進国にいる私たちは莫大な富を手に入れました。しかし、これらはエコロジーや貧困問題に目を向けられないシステムです。アフリカやアジア、南米の国は貧困のままで格差はどんどん広がるばかり。私たちは、先に行くことばかり急いでいませんか?」
Sinny&Ookoは、それに相対する形で「ローカル」を大切にしている。自分たちの足元や、地域を見直すサードプレイスに希望を感じ、サードプレイスを生み出す学校「CAMPUS DES TIERS-LIEUX」などを通して、人々にナレッジを広めているのだ。
社会的連帯企業の特徴でもあり、Sinny&Ookoが大切にするのは、常に「従業員みんなで話し合って決めること」「収益をみんなで配当すること」「ミッションを持つこと」。“急ぎすぎない”彼らが作り出すLa REcyclerieという空間の心地よさを感じながら、「私たちが守らなければいけないもの」に想いを馳せた。
ポスト成長社会に関する研究所「Institut Momentum」に聞く、「脱成長」の背景にある思想
「脱成長」と聞くと、反テクノロジーや不況をイメージする人もいるかもしれない。脱成長とはもともと、環境問題や社会的公正性に対する懸念から、製品主義と消費主義に対する批判として発展したものだ。この脱成長の概念が、複雑な問題を生み出している資本主義社会をより良くするためのヒントになりうるとして、ツアーでは脱成長の概念を研究するフランスのシンクタンク「Institut Momentum(アンスティチュ・モメンタム)」を訪問した。