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2023.10.12 17:30

インテルを下し、エヌビディアに挑む「半導体ウォーズ」で復活したAMD

Forbes JAPAN編集部
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インテルの収益が、3年で12%減の631億ドルとなったのとは違い、エヌビディアは絶好調に見える。同社のGPU(グラフィック・プロセシング・ユニット)は『サイバーパンク2077』などのゲームで美しい映像のためのデータ処理を担っている以外に、オープンAIなどのエンジンにも選ばれている。

こうした大規模言語モデルと呼ばれるものは、実際には余興のようなものに過ぎない。だが同時に、AIがもたらす大変革の序章でもあり、ビル・ゲイツら大物たちはそこにインターネット創世記に匹敵するほどの重要性を見いだしている。

すでに、こうしたAIモデルの動力源であるGPUには非常に大きな需要があり、10年以内に4000億ドルもの大金を稼ぎ出す市場になると予測する調査会社もある。ただ現時点では、GPUメーカーは実質1社のみだ。

「AIをやるならエヌビディアしかありません」

調査会社フォレスターのアナリスト、グレン・オドネルはそう語る。

「この状況はかなり定着しています。AMDがそれを打開するには相当な努力が必要でしょう」

しかも、製造の遅れやチップの不具合、経営陣の入れ替わりを経験してきたとはいえ、パソコン用チップの元祖であるインテルはいまも、AMDの脅威として立ちはだかっている。

最高に開発しがいのあるチップ

14年にスーがAMDのトップに就いたとき、アナリストは22億ドルの負債を抱えた同社を「投資不可能」と評価していた。最も貴重な資産の一部はすでに売りに出され、チップを焼いていた工場も、09年に分社化されていた。13年には、スーの現在の拠点であるテキサス州オースティンの自社キャンパスも売却し、再度賃借しなければならなかった。

AMDは何かと苦戦していた。製品の開発期限を守れず、ノートパソコン市場は低価格帯を除いてインテルに支配され、新しいスマートフォン用チップビジネスはエヌビディア、クアルコム、サムスンの間で分配されてしまっていた。スーも当時のAMDの技術には競争力がなかったと認める。

とはいえ、AMDは投資家にとって、最初から頭痛の種だったわけではない。AMDの共同創業者であるジェリー・サンダースは1980年代初頭、IBMのチップの製造を担うことでマイクロプロセッサー業界に参入。長年二流企業だったが、処理速度でインテルを上回る独自のプロセッサーを開発したことによって、90年代の終わりから2000年初頭にかけて記録的な利益をたたき出すようになったのだ。

ただ14年には、栄光の日々は影も形もなく過ぎ去っていた。当時240億ドル規模になっていたサーバー用チップ市場のシェアは、一時期の4分の1から14年には2%にまで落ち込んだ。CEO就任から2日目、スーはビデオ会議形式で行われた全社会議でマイクの前に立ち、士気の下がりきった従業員たちにメッセージを送った。

「AMDは最高の製品をつくれると信じています」

これは、スーが掲げた3つのAMD立て直し計画の柱のひとつだった。
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文=イアン・マーティン、リチャード・ニエバ 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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