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2023.10.12

インテルを下し、エヌビディアに挑む「半導体ウォーズ」で復活したAMD

2023年1月の米テクノロジー見本市「CES 2023」で講演をするリサ・スーCEO(最高経営責任者)。(David Becker / Getty Images)

米半導体開発企業AMD(アドバンスト・マイクロ・デバイセズ)は長い歴史をもちながら、経営面で苦しみ、インテルやNVIDIA(エヌビディア)の後塵を拝する時期も長かった。だが近年の半導体需要の急増と、それに拍車をかける米中対立、辣腕CEO(最高経営責任者)の就任もあって、破綻の瀬戸際からよみがえり、半導体競争のダークホースになろうとしている。

カリフォルニア州サンタクララ。国道101号線が外を走るAMD本社の最上階にある会議室から、リサ・スーは「シリコンバレー」という言葉より歴史のあるこの会社の指揮を執っている。スーの執務室の窓から見えるのは、急速に進化を遂げる同社の節目を象徴するもの。古くからのライバル、インテルのオフィスだ。その時価総額(1203億ドル)をいまやAMD(1535億ドル)は上回っている。

AMDは、快進撃続きだったわけではない。現在53歳のスーが2014年にAMDのCEOとなったとき、会社は経営難に陥っていた。すでに従業員の約4分の1を解雇し、株価は2ドル前後を推移。元幹部は当時を「完全に終わっていた」と振り返る。

だがその後、今度はインテルがつまずき始める。製造の遅れや、アップルがiPhoneに同社のチップを採用しないと決定したことが影響していた。スーは、ライバルの不調に乗じ、レノボなどのノートパソコンメーカーやゲーム大手のソニー、さらにはグーグルやアマゾン・ドット・コムと契約を結んだ。グーグルとアマゾンが抱える巨大なデータセンターは昨年、AMDに60億ドルの売り上げをもたらしている。

インテルの年商630億ドルに比べると、AMDの236億ドルは小さく見える。とはいえ、スーがCEO職を引き継いでからの9年間で、サーバー用チップの市場シェアをライバルからもぎ取り、半導体企業のザイリンクスを買収したことで、AMDの株価は30倍近く伸びた。そして、人工知能(AI)の主流化が機械学習の基盤となる“シリコン製の頭脳”の需要をあおるなか、スーは自身のレガシーになりそうなチャンスと、独占状態にあるエヌビディアとの競争という手ごわい試練に直面している。

「5年後には、AMDのあらゆる製品がAI対応になり、AIは最大の成長要因になるでしょう」(スー)

スーは9年の間、AMDを“オーバークロック”させてきた。まるでゲーマーがプロセッサーの設定をいじり、メーカーが規定した制限値以上の性能を発揮させるように。テック企業の多くの幹部とは異なり、スーは世界的な研究者であり、マサチューセッツ工科大学(MIT)で電気工学の博士号を取得している。

技術面の優れた才能、対人スキル、そしてビジネスの手腕という能力を併せもち、ここ数年、S&P500の企業で最も高給取りのCEOになっている(22年の給与総額は3020万ドル)。これまでに築いた資産は7億4000万ドル(主にAMD株)、フォーブスが毎年発表する米国で最も裕福な女性実業家ランキングでは34位につけている。
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文=イアン・マーティン、リチャード・ニエバ 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年9月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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