食&酒

2023.10.10

食文化ごと消えつつある「海藻」を独自技術で栽培 シーベジタブルの挑戦

蜂谷 潤|シーベジタブル共同代表 (写真=小田駿一)

「Forbes JAPAN」2023年11月号(9月25日発売)では、「カルチャープレナー」を特集。文化やクリエイティブ領域の活動によって、それまでになかった革新的なビジネスを展開し、豊かな世界を実現しようと試みる若き文化起業家を30人選出し、その活動とこれからの可能性について紹介する。

スジアオノリを中心に、多様な海藻の栽培を、陸上や海面で展開するシーベジタブル。基礎研究から、生産、新しい食べ方までを提案し、海藻文化を世界へと広めていく。


これまで食べたことがある海藻を数えてみてほしい。コンブ、ワカメ、ノリ、ヒジキ......多くの人は両手で数えられる程かもしれないが、実は日本海域には1500種類以上の海藻が生えているといわれ、そのほとんどが毒性もなく食用可能という。しかし、実際に食べられているのは100種類にも満たない。世界で最先端の海藻の食文化があり歴史も深い日本でも、大半の海藻が自然採取で、栽培技術が確立されているのはごく一部のみ。

近年は、海水温の上昇によって採取できなくなり、食文化ごと消えつつある海藻もある。そのような「おいしいのに食べられてこなかった海藻」や「食べられてきたけど採れなくなった海藻」の研究・生産方法の確立から、食べる方法の開発・提案まで一貫して手がけるのがシーベジタブルだ。
共同創業者の友廣裕一は大学卒業後、全国の農山漁村を回る旅をする中で2009年に蜂谷と出会う。蜂谷と共に地域資源を活用した加工品開発や交流イベントの企画などをするなかで、アオノリの強い需要を受けて、シーベジタブルの創業に至る。

共同創業者の友廣裕一は大学卒業後、全国の農山漁村を回る旅をする中で2009年に蜂谷と出会う。蜂谷と共に地域資源を活用した加工品開発や交流イベントの企画などをするなかで、アオノリの強い需要を受けて、シーベジタブルの創業に至る。


共同代表の蜂谷潤が、同社の事業の根幹である海藻の研究や生産分野を担う。「海に潜ると、海藻が生えているエリアとそうでないエリアでは、生き物の多様性や量が全然違うんです。日本中の海から海藻が減っているという危機感から、海藻を栽培する技術の研究にエネルギーを注ぎたいと考えるようになりました」

高知大学で海藻の研究活動を行うさなか、水温上昇などを要因に全国的に収穫量が激減しているスジアオノリに光が当たる。主産地である高知・四万十川河口周辺では30年間で水揚げ量が10%以下にまで落ち込んでおり、このままでは供給が足りずアオノリの食文化が失われる危機が迫っていた。蜂谷は、比較的低コストで安定的にスジアオノリの生産ができる養殖方法として、世界初となる地下海水を利用した陸上栽培モデルを確立。同年、友廣裕一とシーベジタブルを設立し、陸上栽培の拠点を高知県から岩手県、三重県、愛媛県、熊本県まで拡大させた。
熊本県天草市のスジアオノリの陸上養殖場。直径1mから最大20mの水槽が並び、海藻の成長に合わせて大きな水槽へと移し替えていく。水槽の洗浄には、地元の障害のある従業員や年配の従業員も作業にあたる。

熊本県天草市のスジアオノリの陸上養殖場。直径1mから最大20mの水槽が並び、海藻の成長に合わせて大きな水槽へと移し替えていく。水槽の洗浄には、地元の障害のある従業員や年配の従業員も作業にあたる。(写真=小田駿一)

海のゆりかごを再生させる

スジアオノリの需要と供給が安定するようになったころ、毎週のように全国の海に潜り調査するなかで、海藻が消失する「磯焼け」の現状を目の当たりにした。次のステージとしてこの課題に取り組むことを決めた。海藻が茂り海のなかの森である「藻場」は、国内で年間2,000ヘクタールずつ減少している。“海のゆりかご”といわれる藻場が失われると生態系への影響も大きい。そこで、陸上栽培だけでなく、海に海藻がある状態をつくる海面栽培にも着手した。

「こうした取り組みも補助金などに頼らず、ビジネスに組み込むべきだと考えました。香川に行くと、ノリが採れなくなって困っている漁師さんが多い。ノリの養殖は多くの栄養分が必要ですが、モズクなら10分の1ほどの栄養で比較的簡単に育てられる。こうした提案をすることで、地元漁師さんの仕事も増やし、海の生態系にも良いインパクトを出していけたら」(蜂谷)。
温度が安定しており水質も良い地下海水を利用することで、低コストかつ通年で海藻の陸上養殖が可能に。

温度が安定しており水質も良い地下海水を利用することで、低コストかつ通年で海藻の陸上養殖が可能に。


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文=堤 美佳子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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