そう話すのは、水産業にテクノロジーをもち込み、業界のアップデートに臨む「MizLinx(ミズリンクス)」代表取締役CEOの野城菜帆だ。
2021年8月に創業した同社が提供するのは、カメラやセンサーで海中の映像や水温、流速、溶存酸素濃度などのデータを取得し海洋環境を可視化する、IoTの海洋モニタリングシステムだ。現在は主に養殖場で、育てている魚や貝、海藻などの様子を監視する用途で活用されている。野城が挑むのは、5300億円の国内養殖市場であり、34兆円の世界の養殖市場だ。地球温暖化や気候変動で魚が突然大量死するなど海が大きく変化するなか、養殖業の生産性向上を通して、持続可能な水産業の実現を目指している。今後は天然漁業にも進出して、定置網にかかる魚の種類や量を可視化し、漁に出るかどうかの判断に役立てたいとも考えている。
水産業者にプロダクトを提供する一方で、水産業の課題解決に興味をもつ企業からの研究受託の仕事も多い。先述のIoTシステムを通してMizLinxがもつ技術を対外的に示すことで、「このような課題にアプローチできないか」という問い合わせにつなげているという。
23年2月には、沼津市の内浦漁業協同組合とともに養殖マアジの大量死の原因究明と対策に取り組むプロジェクトが、「TECH BEAT Shizuoka AWARD 2022・フードテックセッション」の静岡県知事賞を受賞。溶存酸素濃度や水温のデータから、酸素濃度の低い海水の塊(貧酸素水塊)がマアジに直撃することで酸欠状態になり、窒息してしまうことが原因ではないかという仮説が立ち、着実に検証が進んでいるところだ。
近い将来に海外の市場への進出、ゆくゆくは気候変動に対するアプローチなども見据えている。
「海底探査」という夢も
野城は幼いころから、海底や宇宙などの「極限環境」と呼ばれる場所に興味があった。大学院時代には月面探査車研究をする一方で、学生起業した友人に触発され、自身も起業しようとテーマを探索。「まずは近くて浅い海から始め、技術力や資金力、幅広い人を巻き込む力を付けながら、深海に向かっていきたい」。その先にあるのは「海洋立国日本を実現する」というビジョンだ。シリコンバレーを訪れた際には、規模の大きな夢を追う米国のスタートアップにも刺激を受けた。好奇心は、野城の大きな原動力だ。「事業は手堅く構築する一方で、将来的に『海底探査プロジェクト』を立ち上げたいという思いがあります。シリコンバレーに行き、この夢をやっと公言する覚悟ができました」。
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やしろ・なほ◎1996年、千葉県生まれ。2022年慶應義塾大学大学院理工学研究科修了。大学院では、月面探査車の研究に携わる。また、長期インターンにてIoT製品の試作業務にも従事。21年度未踏アドバンスト事業に採択され、同年8月に修士2年でMizLinxを起業。