食&酒

2023.10.10 17:30

食文化ごと消えつつある「海藻」を独自技術で栽培 シーベジタブルの挑戦

蜂谷が高い専門性を有する技術のひとつが、海に生えている母藻から種を採取して培養する種苗培養だ。この世界初の技術を開発したことで、今まで栽培できなかった海藻を安定的に養殖することが可能になった。友廣は「陸上でいう“砂漠に木を植える”ことを各地の漁師さんたちが担ってくれている。それをきちんと支えて広げていくためには、僕たちが適切な値段で漁師さんたちから海藻を買い戻せるようになる、つまり食べるという“出口”を増やすことが重要です。そこで、料理開発というアプローチに力を入れています」と語る。
全国に10カ所以上あるラボで種苗採取や水質分析の研究を進める。これまで約50種類の海藻の種苗生産に成功。

全国に10カ所以上あるラボで種苗採取や水質分析の研究を進める。これまで約50種類の海藻の種苗生産に成功。


ミシュラン三つ星レストラン「noma」のDNAを引き継ぐレストラン「INUA」でメニュー開発を担当していた石坂秀威もジョインした。石坂は、アオノリを発酵させてつくった醤油や、牛乳を合わせて加熱したアオノリミルクからつくったアイスなど、粋にとどまらない調味料やメニューを生み出している。「日常のなかで海藻の登場頻度が増えなければ、海を豊かにすることもできません。思考停止してしまっていた海藻の食べ方の裾野を広げて多様なニーズを生み、海藻の新しい食文化をつくっていきたい」(友廣)。

今年春、nomaが京都でポップアップレストランをオープンした。そこでは、天然物の収穫量が減っていたもののシーベジタブルが栽培したユミガタオゴノリやトサカノリを使った海藻しゃぶしゃぶを提供。独特の食感や風味は、世界中の食材を食べ尽くしてきたグルメたちの舌をうならせた。
海面養殖しているトサカノリのかごの周りにはヨコエビなどが集まり、さらにそれらを捕食する小型の魚がやって来る。

海面養殖しているトサカノリのかごの周りにはヨコエビなどが集まり、さらにそれらを捕食する小型の魚がやって来る。


「海藻を食べる文化が一般的ではない海外の人にとって、海藻は未知の食材です。食というアプローチは日本がリードできる分野。新たな食文化を開拓して発信していくのが、僕たちの役割です」(友廣)


はちや・じゅん◎1987年生まれ。高知大学農学部在学中にビジネスプランコンテスト全国大会の文部科学大臣賞・テクノロジー部門大賞を受賞。現在は、全国の海に潜りながら、社内外の多様な研究者たちと海藻の可能性を探究中。

文=堤 美佳子

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年11月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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