居住権を取得するのも大して難しいことではない。条件は、アパートの賃貸または購入、銀行口座の開設と50万ユーロ(約7900万円)以上の資金調達、電気などの公共料金の契約だ。申請者は犯罪歴がなく、モナコ警察による面接を受けなければならない。欧州連合(EU)加盟国の国籍者とスイス人は、モナコで直接居住権を申請することができる。ボッセ博士によると、手続きにかかる期間は約2カ月間だという。一方、米国人の場合はまず、フランスで長期ビザを申請する必要がある。
米国人にとっての不都合な面はそれだけではない。世界のどこに住んでいても、米国人には自国の出国税が付いて回る。フォックス・ロスチャイルド法律事務所で国際税務と資産計画の共同責任者を務めるジェリー・オーガスト弁護士は「(モナコで)課税されていなければ、マンハッタンに住んでいるのと同じように、世界中の所得に対して税金を払い続けることになる」と説明する。
フランス人もまた、モナコでは運に見放されていると言えよう。長年の協定により、フランス国民はモナコに居住していても、自国で所得税を納めなければならないからだ。モナコは米国やフランスを含む世界35カ国と税務情報交換を巡る協定を結び、うち33件が現時点で施行されている。
ボッセ博士は、モナコの税制上の優遇措置が「人々が考えるほど大きくない」場合もあると指摘する。世界中で活躍するスポーツ選手も源泉徴収されるか、競技を行う国で税金を納める必要がある。例えば、ジョコビッチは今月、全米オープンで優勝賞金300万ドル(約4億4300万円)を獲得したが、モナコ政府に対する納税の義務はない。だが、米国税庁はそれほど寛容ではない。
同様に、スポンサー収入やソーシャルメディア収入にも課税されることがある。国によっては、国内でのメディア出演やデジタル投稿、オンライン販売などが課税対象となり、こうした方法で得たスポーツ選手の収入の相応額が自国の法律の適用範囲となると主張する場合もあり得る。とはいえ、このような収入は賞金と違って定義が難しい。
先述のオーガスト弁護士は「米国でも国際的にも課税の基本原則は、国内で労働が行われた場合、その国はその労働に対して常に課税する権利があるということだ」と説明する。それは、どんなテニス選手も手を出したくないラケットなのだ。
(forbes.com 原文)