ウィリアムズに対してそうだったように、ブランド各社は大きな関心をもって、ガウフのプレイヤーとしての、そしてマーケティングにおいて多大な影響力を持つスターとしての成長を見守ってきた。
ガウフは2018年、14歳で世界ジュニアランキング1位となり、プロに転向。その年に初めて、トーナメントで優勝を飾った。翌2019年にはウィンブルドン選手権の初戦でウィリアムズを制し、今夏ワシントンD.C.で行われたシティ・オープン、シンシナティで開かれたウェスタン&サザンオープンでも勝利を収め、多くの人を驚嘆させた。
ガウフのマネジメントを担当する米タレント・エージェンシー、Team8(チームエイト)はこの間、彼女の父でコーチのコーリー、自宅で勉強を教えてきた母のキャンディに、忍耐強くあることの重要性を説いてきた。
ガウフがテニスに集中できるよう、人としての成長が妨げられることがないよう、そして他の若き天才たちが経験した燃え尽き症候群を避けることができるよう、気持ちを乱す原因となり得るものを遠ざけてきた。
こうした配慮は同時に、ガウフが大躍進といえる大きな勝利を収めるそのときまで、スポンサー企業を比較的少ない数に抑えることにつながってきた。2023年全米オープンで優勝を果たし、まさに「その瞬間」を迎えるまで──。
求められる「新たなスター」
全米オープンでの初優勝は、19歳のガウフに300万ドル(約4億4000万円)の賞金をもたらし、今年の獲得賞金を560万ドルに引き上げた。ガウフはプロとしてのキャリアわずか5年間で、総額およそ1110万ドルの賞金を獲得したことになる。そのほかガウフは、企業とのスポンサー契約や出演料、その他のビジネスによって、過去12カ月に推定1200万ドル(税引き前、エージェント手数料支払い前)の収入を得ている。
フォーブスが2023年8月に公表した「最も稼ぐテニス選手」ランキングでは7位だったガウフだが、近い将来、その収入が新たなレベルに達することは、間違いないだろう。
2021年の全米オープンで、18歳で初優勝した英国のエマ・ラドゥカヌにも、ディオールやポルシェなど、名立たるブランドからスポンサー契約のオファーが殺到した。2023年のコート外での彼女の収入は、およそ1500万ドルと推定されている。2021年には予選から勝ち進んだ、それまであまり知られていなかった選手としては、目を見張るような金額だ。
ガウフにとって「その瞬間」が完璧なタイミングで訪れたといえる理由は、ほかにもある。マーケティングの世界はいま、40歳をすぎ、すでに2022年に引退を示唆しているウィリアムズが去った後にできる「大きな穴」を埋める新たなスーパースターを探し求めている。