確かな技術力にプラスされたデザインの力
「東京のデザイン会社・TENTさんとのコラボのきっかけは、両社をよく知る知り合いの社長に“2人が組んだら絶対面白いものが出来るからやってみて!”と声を掛けてもらったことでした」『フライパン物語』というサービスが普及し、一定の売上げが見込めるようになっていた2017年頃。藤田さんは次のステージに向けて、デザインに力を入れた新商品の開発を企てていた。
冒頭の声掛けは、タッグを組むデザイナーを探していた藤田さんにとっては渡りに舟。「失敗してもいいからチャレンジしてみよう」。フライパン物語のヒットで出た利益をすべて注ぎ込み、藤田さんは新商品の開発に着手した。
デザイン会社にオーダーしたのは「取っ手が取れる鉄フライパン」という1点だけ。形状やコンセプトは全てデザイナーに一任した。その後、デザイン会社から提案されてきたのは、シンプルな鉄のお皿。
「びっくりしました。いや僕お皿は頼んでないですよって言ったら、3Dプリンタでつくった取っ手が出てきたんです。これをつけたらお皿がフライパンになりますと言われた瞬間、めちゃめちゃおもろいやん! やる!と即決しました」
「“つくる”と“たべる”を1つにする」というコンセプトと、鍋のイメージとはかけ離れた形状に「これがデザインの力か」と藤田さんは感動したという。
そこから、細かい商品開発に要した月日は約2年。皿の部分は、藤田金属が長年培ったノウハウを用いることですぐにデザインを形にできたが、問題は持ち手の部分。皿の重みに耐えられ、着脱しやすく、かつ意匠性のあるもの……デザインと構造の狭間で試行錯誤をくり返し、数多くの試作を重ねた。
そうして、ようやく納得いくものが完成したのが2019年。
満を持しての発売にあたって、支払ったPR費用は外部用プレスリリース1回分の3万円のみ。それでも国内外からいろんなメディアの取材や問い合わせが相次ぎ、初回ロットの300個は即完売した。
異業種とのコラボで認知の拡大へ
「現時点で、累計販売数は6万個を超えました」と藤田さん。藤田金属の看板商品として売れ続けているフライパン ジュウは、2021年、世界三大デザイン賞の一つ「iFデザイン賞」と「レッド・ドット・デザイン賞」を獲得した。
現在の工場兼ショールームがオープンしたのも、同じく2021年。一般の方々にものづくりに興味を持ってもらいたいという想いから、工場内を公開するオープンファクトリーにこだわった。工場2階にあるショップスペースからは、工場全体の様子を眺められるようになっている。
ショップ内には、システムキッチンを導入したキッチンスペースも。ここから、社の製品を用いた料理動画の配信や、地域の人たちを招いて料理のワークショップなども始める予定だ。
「こうしたリブランディングが功を奏して、テレビや雑誌などの取材依頼がかなり増えました。また、フライパン ジュウのおかげでさまざまな企業からのコラボ依頼も絶えません。興味を持ってもらえるのはそこに技術と品質があってこそだと思っているので、純粋に嬉しいです」
だが、世間的には会社名の認知までには至っていないのが課題だという藤田さん。「鍋を見ただけで藤田金属と分かる、というところまでたどり着くのが目標です」