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2023.09.16

長時間労働をする配達ドライバーの行く末は?│映画「家族を想うとき」

映画「家族を想うとき」より イラスト=大野左紀子

人手不足で長時間労働の慢性化が問題となっている物流業界だが、働き方改革関連法によって、2024年度から労働時間に制限が設けられることになった。これによって、宅配便のお届け日数が延びる可能性があるだけでなく、ドライバーの賃金が減り更なる離職を招くのではないかと言われている。いわゆる「2024年問題」だ。

というわけで今回は、宅配の仕事を始めた父親とその家族の姿を描いた佳作『家族を想うとき』(ケン・ローチ監督、2019)を取り上げよう。

1日16時間、週6日の過酷な労働

原題は「Sorry We Missed You」(ご不在につき失礼します)という不在連絡票の定型文言。

邦題に騙されて家族が助け合うほのぼのホームドラマかと思って見ると、完全に裏切られる。これは、どこにも救いを求めることのできない下層労働者家庭のリアルな悲劇だ。この話は、怪我をしている身を押して宅配をしている最中に事故を起こし死亡したという、実際の事件が元になっている。

ドラマは、宅配業者との面談に臨む父リッキー(クリス・ヒッチェン)の台詞から始まる。あらゆる建設業、土木業、墓掘り仕事までやってきた彼。「生活保護は?」の問いに「俺にもプライドがある」としつつ、事業所の監督者であるマロニー(ロス・ブリュースター)を見つめる目には藁をもすがりたい思いが見え隠れする。
リッキー役を演じたクリス・ヒッチェン(2019)/ Getty Images

リッキーが結ぶことになるのは「ゼロ時間契約」と呼ばれ、社員ではなく個人事業主として事業所と契約する形態。宅配のバンもガソリン代も経費はすべて自分持ちで、一日100件の配達が義務付けられている。初日、仲間に「トイレに行く時間なんかないぞ」と尿瓶用のペットボトルを渡され笑い飛ばすリッキーだが、やがてそれが現実であることを思い知らされる。

さらに、マロニーから渡された伝票のスキャナーには追跡システムが組み込まれており、仕事中も常時監督されていることがわかってくる。ミスをすれば高い制裁金が課せられ、実入りが減って借金が嵩んでいくが、それを取り返すためにはもっと働かねばならない。

人件費を最小限に抑え、ノルマと罰則で労働者を縛り、効率を最大限に上げさせて儲ける、資本主義を煮詰めたようなシステムの中で、リッキーには1日16時間、週6日の過酷な労働が待っていた。
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文=大野左紀子

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