映画「ファルコン・レイク」は、つづめて言えば「恋愛作品」かもしれない。表向きは、14歳になろうとしている少年と大人の階段を登り始めた16歳の少女が、ある夏に避暑地で出会い、恋愛への鼓動に心を揺れ動かす物語だ。
しかし、冒頭場面から並の恋愛作品とは少し様相が異なっている。カメラは少し暗めの湖に浮かぶ人のようなものを捉える。少しも動く気配がないので水死体かと思い凝視すると、突然、それは起き上がり、湖から立ち去っていく。
カナダ・ケベック州の神秘的な湖と鬱蒼と繁る森に囲まれた地を舞台にした「ファルコン・レイク」は、このような「死」のイメージを喚起させる場面から始まる。主人公たちが「生」を確かめ合う湖には、幽霊が出るという「死」のイメージが付き纏い、スリリングな恋愛作品が幕を開けるのだ。
さりげなく顔を出す「死」のイメージ
14歳を迎えようとしているバスティアン(ジョゼフ・アンジェル)は、両親や幼い弟とともにフランスからカナダ・ケベック州のリゾート地へとやってくる。そこには母親の友人がコテージを所有していて、夏の休暇をともに過ごすことになっていた。バスティアンと弟があてがわれたのは、母の友人の娘クロエ(サラ・モンプチ)の部屋。バスティアンが真夜中に目を覚ますと、暗闇のなかにクロエのシルエットが飛び込んでくる。年上のクロエとバスティアンの来るべき関係を象徴する印象的なシーンだ。
実は、バスティアンの一家がこのコテージを訪れるのは2年ぶり。クロエの成長ぶりはバスティアンには眩しく映り、心のなかに微かなざわめきを感じていた。ひさしぶりに再会した2人は、翌日、近くの湖に出かける。
クロエはさっさと服を脱ぎ捨て水着となり、湖に飛び込む。しかしバスティアンは湖畔に置かれたソファに座ったまま、その姿を眺めている。
バスティアンは湖に飛び込むクロエをただ眺めている(c)2022 – CINÉFRANCE STUDIOS / 9438-1043 QUEBEC INC. / ONZECINQ / PRODUCTIONS DU CHTIMI
クロエは「湖の幽霊が怖いの?」と泳ごうとしないバスティアンに声をかける。この湖ではかつて水難事故があったため、幽霊が出るとクロエは信じているのだ。この場面でも「死」のイメージが顔を出す。