「行政トップ」からの社会変革は未来への新たな可能性になりえるのか──。最年少女性市長として大津市長を務めた越直美の言葉から見えてきたことは。
芦屋市長・高島崚輔に先駆けること約10年、新時代の価値観を先取りした人物がいた。36歳、当時最年少の女性市長として大津市長を務めた越直美だ。ビジネスサイドを中心に日本、米国で弁護士として活躍していたが、そのキャリアを投げ打って自分が育った街で行政のトップを担った。
現在は弁護士業とともに起業したビジネスの世界にいる越のキャリアをたどることで、新しい時代のリーダーがなぜ首長を目指すのか、その理由が見えてくる。激動の30代を駆け抜けた“先輩”世代の声を聞いてみよう。
「人生であれほど仕事に熱中できた8年はなかった」──。現在は三浦法律事務所の弁護士、そして女性を中心に役員候補になる人材を育成し、企業とマッチングする「OnBoard」社のトップを務めている。新たな挑戦を始めた越にとって、市長時代の8年は得難い経験だったという。
大津市に育った彼女は、ハーバード大学ロースクールを修了後、日本と米ニューヨーク州・カリフォルニア州の弁護士資格を取得している。日本における弁護士活動のスタートは現・西村あさひ法律事務所で、主な業務は新聞の一面を飾るようなM&A(合併・買収)や海外企業の案件だった。米国時代も大手の法律事務所に出向というかたちで、ビジネスサイドの弁護士として成果を積み重ねた。
いわゆる“人権派”として社会的な課題に取り組んだり、メディア出演で知名度があったり、言い換えれば政治に近い仕事をする弁護士ではなかった点に越のオリジナリティが宿る。そんな彼女がなぜ市長選挙への立候補に至ったのか。理由は大きく2点に整理できる。
第一に家庭環境だ。大阪のデザイン事務所に勤めていた母は祖母の介護のため会社を辞めざるをえなかった。介護保険制度がなく、介護は家庭で請け負う以外に選択肢がない時代だった。行政が解決すべき問題なのではないかと思っていたが、具体的な行動に移ることはなかった。
第二に米国で受けた衝撃である。女性の弁護士はベビーシッターをうまく使いながら仕事と育児を両立し、男性弁護士も「育児休暇を取るから、あとはよろしく」と気軽に言って本当に1年間も休んだ。