起業家

2023.08.29

「感覚過敏」の課題解決で いまをあきらめない社会へ

加藤路瑛 クリスタルロード代表取締役社長 感覚過敏研究所所長 写真=帆足宗洋(AVGVST)

「働く」に憧れ、12歳で親子起業。自ら症状をもつ感覚過敏の解決に向け、大学や企業とも連携し、啓発、ビジネス、研究から行動を起こす17歳がつくろうとしている未来とは。


白いパーカーには縫い目が外側にあり、首元にタグはない。顔まで覆えるフードは光や音の刺激からガードできる仕様だ。クリスタルロード社長、感覚過敏研究所所長を務める加藤路瑛が着ているのは、自身がプロデュースする五感に優しい着心地を追求した「KANKAKU FACTORY」の商品。加藤自身が症状を持つ「感覚過敏」に悩む人のためにつくられたアパレルブランドだ。

感覚過敏とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚などの諸感覚が過敏で日常生活に困難さをかかえている状態をいう。その自身の困りごとを起点に、「誰もが心地よく快適に過ごせる環境をつくっていくこと」(加藤)。それがいまの事業の中心だ。

加藤は働く両親の姿が格好よく見え、早く働きたかった。起業を思いついたのは中学1年生の12歳。母が買ってくれた化学のカードゲームを考案したのが小学生だと知ったことがきっかけだ。起業したいと親に話すと本気とは思われず、「いいんじゃないの」と。12歳の年齢では法人の代表権を取れないため、親が代表、加藤が代表権がない取締役という親子スタイルでクリスタルロードを創業。最初に取り組んだのは、小中高生が取材し運営する職業探究情報サイト「TANQ-JOB」のメディア事業。だが、収益化できずにほどなく撤退する。次の事業を考えていたときだ。「せっかく自分の会社をもっているなら自分の困りごとを解決したら」と父が助言をくれた。

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個人ごとを社会解決ごとへ

創業時に掲げた会社のミッションは「『今』をあきらめなくていい社会をつくる」。子どもだから、お金がないからと、やりたいことを断念しない社会にしたい。そんな思いから掲げたが、「父の言葉で、感覚過敏を理由にやりたいことをあきらめていた自分自身に気付きました」。音や匂いが苦手でカラオケも食事も友だちと行けなかった。授業中にカチカチと鳴るシャープペンや教室の騒がしさ、制服は着ると痛みを感じるなど感覚過敏のある加藤にはつらい場所だった。不登校気味になり、中学2年の時に私立中高一貫校を退学し、フリースクールに通った。

加藤は2020年1月、感覚過敏研究所を設立し、本の執筆や講演などの啓発活動、商品やサービスの企画制作と販売、研究の3事業を展開中だ。「感覚過敏に関する商品やサービス、研究を知りたいならここだと言われる存在になりたい」(加藤)。

加藤は現在、奈良女子大学の教授と感覚過敏の困りごとをスコア化する尺度開発を共同研究し、東京大学大学院の研究室が進める感覚過敏のメカニズム研究にも協力。パナソニック、乃村工藝社と感覚への刺激が優しい音や光を調整したセンサリールームのコラボ企画で実証実験を行った。カンコー学生服とワイシャツの共同開発を行うなど、「社会ごと」へと動き始めている。その多くが、自ら声をかけてつながったものだ。快適に過ごすことを誰もあきらめなくていい社会づくりに挑み続けている。


かとう・じえい◎2006年生まれ。角川ドワンゴ学園S高等学校3年生。2018年に12歳でクリスタルロード創業(創業時は取締役社長、15歳で代表権取得)。2020年に感覚過敏研究所を設立。

文=斉藤泰生 写真=帆足宗洋(AVGVST)

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