上場で預かった「社会変革の予算」
──山本社長は、いつから寄付への関心を持ったのでしょうか。Chatwork代表取締役CEO・山本正喜(以下、Chatwork山本):2019年9月に上場したのがきっかけです。2000年に兄と学生起業し、上場まで必死でやってきました。上場後も落ち着くことはなく、忙しくしていたのですが、コロナ禍となり、緊急事態宣言も出ました。私もコロナになり、在宅で仕事することも増えて。ふと上場で得た資金について、考える時間ができました。正直、これはなんだ、と思ったんです。別に、上場前後で僕自身が変わっているわけでもないのに。
創業社長と他の役員、社員が得られる資金規模の差はあまりにも大きいのは、資本主義の歪みだと思うんです。一定貢献の程度の差はあっても、一生懸命にみんな人生をかけてコミットしてきた中で、これだけ差がつくのっておかしいな、と。だから、正直、自分のお金に思えなかった。自分が好きに使えるお金だと思うと、狂っちゃうんじゃないかなって気がしたんです。
このお金はどうすればいいのか。半年ほど考えました。出た結論が「この資産を、社会から預かった予算と思おう」でした。自分の観点でうまく社会を良くするために使う予算と整理したのが、僕の出発点です。
──「個人資産ではなく、社会変革の予算」。そう考えると、ご自身の行動は変わりましたか。
Chatwork山本:変わりましたね。予算なら、数千万円の決裁、数億の事業計画の承認は日常的にやっていて、何の抵抗もありません。最初は、ユニセフ、ウクライナ緊急支援、地震救援など、思いつく寄付をやってみました。でも、正直、手触りがなくて、自分でなくともできるんじゃないか、と思いました。お金だけでなく、自分の意思を入れないと生きたお金にならない、と気付かされましたね。そこから意識的に「社会を変えていく構造を作るトリガーになる領域にお金を使う」という考えへとシフトしました。今回、Policy Fund内で基金を設立するのも、そうした発想からです。
PoliPoliCEO伊藤和真(以下、PoliPoli伊藤): 山本さんに立ち上げからの参画を依頼したのは、エンジェル投資家として、社会の構造変革に寄与するお金の使い方を既にされているからです。上場企業の社長でありながら、現在、80社以上のスタートアップにエンジェル投資、20件のVCにLP出資をされている。応援しているのも、シードVCもなかなか投資できないフェーズのスタートアップ、今から1号ファンドを組成する思いある小さなVCばかり。間違いなく、日本のスタートアップエコシステムに貢献されているエンジェル投資家の一人だからこそ、お声がけしました。