結果、支援が必要な人に生理用品を無料配布する政府予算が46億円、予備費から13億円が計上されたのだ。支援で当然、人々の暮らしは変わる。予算額以上の社会への波及効果が見込まれる成果だ。伊藤がPolicy Fundに持つ自信は、こうした実績に裏打ちされている。
ではなぜ、レバレッジをかけた社会課題解決が日本で必要なのか。
「日本には、少子高齢化、経済成長の鈍化、人口減少など、多様化、複雑化していく社会課題が多数ありますが、政治・行政のリソースには限界があります。そのため、政治・行政が社会問題を把握、解決策を検証、実証するという、これまでの仕組みが機能しなくなっています。一方、公的なリソースを使う際も、説明責任など、執行までに時間がかかってしまう。新しい課題解決のアイデアを試す、素早い実証には不向きです」
Policy Fundでは、まず公的リソースに代わって、活用できる民間リソースを、起業家や経営者といった民間のリーダーたちに呼びかけ、寄付基金を設立することで準備する。その基金を財源として、民間のNPOなどに小さく、素早く、社会課題解決の実証実験を行ってもらう。そこで生まれた成功事例を政府・自治体に提案。政策へと反映することで、社会課題解決を加速させようという戦略だ。
迅速な課題解決には、十分な資金供給が欠かせない。Policy Fundは一般財団法人化し、2024年末には数億円、5年後には数十億円から100億円規模の巨大基金への成長を目指す。
政策起業を加速する「民主主義の黒子」
政治や行政がつくるものにも思える「政策」。はたして、民間でもつくれるのか。実は日本にも、先行事例を非営利団体がつくり、政策化したケースがいくつかある。代表例は、待機児童問題の解決に貢献した「小規模認可保育」の政策化だ。認定NPO法人フローレンスが、従来、定員20人未満では保育園を開設できなかった政策の変更を推進した。そのプロセスは実に戦略的だった。まず、フローレンス現会長・駒崎弘樹は厚生労働省にかけあい、交渉を繰り返し、実験的な小規模保育所の開設許可を得た。旧知の政治家、官僚に働きかけ、視察の受け入れ、提言をはじめる。同時に、市区町村など自治体を巻き込み、様々な地域で16の小規模保育所を開設。小規模認可保育に関する業界団体をつくり、国の審議会に業界団体の代表として関わっていく。結果、「小規模認可保育」は、現場の意見が細かい点まで盛り込まれ、政策化された。その後、全国の小規模保育園は5727カ所(2021年10月1日時点)まで増え、つくられた政策は今も待機児童問題の解決に貢献し続けている。駒崎はこうした動きを「政策起業」、その主体を「政策起業家」と呼んで推奨すると同時に、育成に取り組んでいる。