テレ東P、大森時生が「不気味なもの」をつくる意味

大森時生 写真=帆足宗洋(AVGVST)

こうして、趣味のひとつとして小説や映像作品にのめり込んでいった大森だが、「自分がつくり手になりたい」という思いはなかった。
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「他の素晴らしいコンテンツをたくさん知っている分、『自分には才能がない』とガッカリしてしまうので、つくるのは嫌でした。今はたまたまテレビ局に入ったからやっていますが、他の仕事に就いていたら絶対に何もつくっていない。その自信はあります(笑)」

「たまたま」という言葉通り、就職活動の際も“テレビ業界一筋”ではなかった。漠然とクリエイティブにたずさわれる職業に興味はあったものの、コンサルや人材会社なども幅広く受けた。そのなかで「一番楽しそうだ」と思ったのがテレビ東京だった。

ただ、テレビ局に就職してプロデューサーになり、“つくらなきゃいけない環境”におかれると、不思議と頭が動いた。
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「僕と同じように、クリエイティブとまったく関係ない仕事をしている方でも、そういう環境におかれるとできてしまう、というケースは多いと思います。例えば、歳を重ねてから小説を書き始めて賞を取られたりする方も、そうかもしれません」

「このテープもってないですか?」が大ヒット

入社3年目で手掛け、2021年12月に放送した「Aマッソのがんばれ奥様ッソ!」(全4回)は、ひとつのターニングポイントになった。

番組の紹介文には「芸能界のおせっかい奥様が日頃大変な思いをしている奥様たちのお悩み解決に大奮闘!笑いあり、涙ありのハートウォーミングバラエティです!」と書かれているが、これを信じて視聴すると、じわじわと嫌な感じがしてきて、後半になるにつれて怖くもなってくる。思わず第一回放送に戻って“考察”したくなるような仕掛けが隠されている番組だ。

この番組の企画は、「バラエティ番組で自宅訪問ロケをするときに、ひっそりと奇妙なことが起こっていたら面白いな」と考えたことから始まった。ちょうど2021年にネットミームにもなっていた「洋子のはなしは信じるな」(事件の被害者家族のインタビュー中に、謎のメモが写りこんで話題になった)のような。そこから放送作家と一緒に企画を練り社内でプレゼンしたところ、ネットを中心にホラーブームが起こり始めていたことも後押しして番組化が決まった。

この番組で世間に見せた大森の「色」は、少しずつ濃くなっていく。「Raiken Nippon Hair」で2022年の「テレビ東京若手映像グランプリ」の優勝を掴むと、2022年4月にはその優勝特番「島崎和歌子の悩みにカンパイ」を手がけた。
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取材・文=田中友梨 写真=帆足宗洋(AVGVST) スタイリング=千葉 良(AVGVST) ヘアメイク=KUNIO Kataoka(AVGVST)

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