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2023.09.04

いま、働き方先進企業は「お金」とどう向き合っているか

キャリア選択の要素に欠かせない報酬。先進的な組織づくりをしている企業では、どのように決めているのだろうか。日本と世界の組織開発に関する知見を収集・発信する令三社代表取締役・山田裕嗣に寄稿してもらった。


期初に目標を立て、期末に上司と面談、評価会議にかけられ、いまいち納得感のもてない結果があとからフィードバックされる……。給与・賞与が決まるときに、大なり小なり似たようなプロセスを経験したことのある人は多いだろう。この仕組みが必ずしも間違っているわけでもないが、国内外問わず、報酬の決め方にはユニークな試みが増えている。

まずは、起業家精神にあふれる「社内取引」や「自己決定」について見ていきたい。

中国のメーカーであるハイアールでは、原則としてあらゆる業務が「社内取引」として成立している。10万人近い従業員が各15人程度の「マイクロエンタープライズ」と呼ばれる数千社の小規模企業に分かれており、設計・製造から法務・経理などに至るまで、あらゆる業務がそれぞれの小規模企業によって請け負われる。それぞれのマイクロエンタープライズで上がった利益は、そこに所属するメンバーで自由に分配を決めることができるし、損失が続けば会社は倒産する。従業員が自己決定できる範囲が極めて大きいが、その分、一人ひとりに起業家精神を発揮することを強く求めるモデルだ。

同じ起業家精神の発揮を期待する会社でも、日本のITサービス企業であるガイアックスは違ったアプローチを取る。ガイアックスでは、四半期ごとに自分で自分の目標を立て、その達成度合いに応じた給与金額を自ら提示する。期末になると、上司とともに振り返りを行い、どの金額が妥当であるかをともに決定する。

また、評価制度とは異なるが、ガイアックスでは「カーブアウトオプション制度」と呼ばれ、既存事業を別会社として独立し、全株式の50%までのストックオプションを得られる制度もある。新たな起業家の輩出を後押しするための仕組みとなっており、この制度によってIPOした企業も存在する。

日本の半導体設備メーカーのディスコでもユニークな取り組みがある。ディスコでは、独自の管理会計「Will 会計」に基づいて社内業務の受発注が行われる仕組みが整えられている。個別の業務依頼から社内の会議室利用や備品の貸与に至るまで、あらゆることがこの会計による通貨によって運営される。ただし、これが給与に直結するわけではなく、一定割合が賞与として反映される方式となっている。

同じ「自己決定」という仕組みでも、それが意図している方向性と異なることもある。日本のITシステム開発を行うゆめみでは、社内のキャリアアドバイザーとの面談、同僚3人以上からのフィードバックを経て、自分の給料を自分で決定することができる。働く従業員への期待値でいえば、一人ひとりが自分の成長に自ら責任をもつことを期待しているし、組織づくりの目線でいえば、「マネジメント」という職務を分散化させることで組織のスケーラビリティを達成しようとしている。

社外人材による1on1を提供するエールにおいても、社員の給与は「自己決定」によって行われるが、根底で大切にされるのは「自律」である。一人ひとりが自分自身のことを深く理解しようとし、周囲は多様なフィードバックによってその内省を支援する。また、その相互のフィードバックを通じて他者のことも深く理解する。この一連のプロセスを経たうえで、報酬を「自ら決める」ことが、本当の意味での「自律的に働く」ことへと通じる、という思想に根ざしている。
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文=山田裕嗣 イラストレーション=ジャコモ・バニャーラ

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