どんな思想に共感し、働きたいのか?
全体と個人の利害を一致させる「利益分配」の例として、スペインを中心に30社程度の企業グループによって成立するNER(ネル)グループでは、全体の成果に向けて一丸となって取り組むことに主眼を置く。そのわかりやすい取り組みとして、期末に利益の30%を全員で分配する。グループの1社である大型車両メーカーのIrizarでは、何年にもわたって約300万円の報酬を受け取れていたこともあるそうだ。NERグループの取り組みはこれだけではない。例えば、残業代の支払いは原則としてやめる。「長く働くほど給料が増える」ことが、全体の成果の最大化と相反するからだ。全体の給与格差も抑え、いちばん上と下の給与格差が「3倍以内」に収まるように調整していく。これらの施策は、決して強制されるものではないことも特徴的だ。NERグループに加わるに当たり、CEOが「自分が交代するかもしれない」可能性まで含めてコミットし、さらに「社員の80%の賛成」があって初めてこういった組織変革に着手する。
また、長期目線のための「固定的な報酬」を取り入れる企業もある。オランダの金融系サービス企業のViisiでは、入社時点で将来の給与がすべて確定する。職種ごとに経験年数に応じた金額があらかじめ決まっているため、どれほど活躍しても(逆にしなくても)その金額へと自動的に昇給する。100人未満の小さな組織ではあるが、いわゆる「管理職」は置かず、一人ひとりが自律的に働くことを前提に組織がすべて設計されている。採用には丁寧に時間をかけたうえで、その働く環境や組織文化にフィットする人が長く働き続けられることを意図し、給与制度も設計されている。
日本では、例えば「納品のない受託開発」などを行うソニックガーデンも、長期的な目線での報酬設計を行う。ソニックガーデンでは「一人前」となったエンジニアは、原則として全員一律の給料となる。パフォーマンスを高くしても給料は変わらないが、逆に時間あたり生産性を上げることによって「自由な時間」が増える。「プログラマーを一生の仕事にしたい」という思いを前提に、同じ価値観や仕事の進め方を共有したメンバーが、ともに長く働き続けられる仕組みとなっている。
ほかにも、例えば「徹底した成果主義」を体現した賞与が大きい設計もありうるし、お金よりも「手厚い福利厚生」によって従業員の働きやすい環境を整えることもできる。報酬の決め方が多様であるのと同じく、根底にある考え方もそれぞれだ。個人の成果や成長を重視するのか、チームで協力して働くことが大事なのか。短期での変化や成長を期待するのか、長期的な良好な関係や文化を育みたいのか。
働く個人の視点から考えるならば、「お金」の金額だけにとらわれ過ぎず、自分がどのような思想に基づいて働きたいのか、その相性を見極めることも重要だ。