AI

2023.08.24

ハーバード大教授と共同創業 AIリスクに立ち向かう日本人起業家

大柴行人 写真=帆足宗洋(AVGVST)

「研究をもっと社会実装したいから、ブレストに付き合ってくれ」。大柴の起業は、ハーバード大学での指導教授ヤロン・シンガーからの一声で始まった。卒業を間近に控え、大柴はスタンフォード大学院とグーグルのAI研究所からオファーを受けていた。ブレストで2人が目をつけたのはロバスト機械学習。AIシステムをより安全で、「強固(ロバスト)なもの」にする方法を考える分野。後に起業するロバストインテリジェンス(以下、ロバスト)のコア技術であり、社名の由来でもある。AIリスクを事業領域に定めた。

AIには従来のソフトウェアには存在しない、特有のリスクが存在する。AIは「魔法の道具」ではない。うそをつくし、知ったかぶりもする。差別もすれば、暴言も吐く。悪意のある攻撃で、だまされることもある。しかし、2019年の創業当時、AIのリスクはまだ顕在化しておらず、シリコンバレーには「AIなら、何でもできる」と謳うAIスタートアップが、続々と誕生していた時期であった。

世界的VCセコイアが投資

周囲の盛り上がりをよそに「AIの脆弱性と対策」を一貫して説き続ける大柴たち。その先見性が、一部の実績ある人々を引きつけた。まずはチーム。「AIのリスクに立ち向かう」というロバストでしか追求できないビジョンに、米マイクロソフトのAIリスクの統括担当メンバー、米グーグルにてAIセキュリティを初期に担当したシニアAIエンジニアなど、世界トップクラスのAI人材が集まってきた。

この動きは、世界的VCであるセコイア・キャピタルのパートナー、ビル・コーランの目にも留まる。グーグルでエンジニアチームを率いるシニアバイスプレジデントを務めた経験のあるコーラン。10年前のグーグル内でのAIに関するインシデントの多発を知っており、AIの普及によるAIリスクの社会問題化をにらみ、製品もない段階で出資を決めた。

ロバストは現在、企業でのAIガバナンス構築を支援し、リスク管理をするプラットフォームの運用を事業とする。導入先は、アメリカでは国防総省、Expedia等、日本では東京海上ホールディングス、Zホールディングス等。資金はセコイアやタイガーグローバルなど、世界トップVCなどから累計約80億円を調達している。

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文=フォーブス ジャパン編集部 写真=帆足宗洋(AVGVST) スタイリング=千葉 良(AVGVST) ヘアメイク=KUNIO Kataoka(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 2023年10月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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