それでも代表に招集され続ける自身の立ち位置を、浅野は苦笑いしながらこう語る。
「所属クラブでの数字や結果を見ても、まったく満足できるものではない。代表のなかでも自分がみんなよりも劣っている、という点は理解しているつもりです」
自らを冷静に客観視した上で、自虐的な言葉で立ち位置を表現することもいとわない。決して背伸びをしない浅野の姿勢は、実はいまに始まったものではない。前出のW杯ドイツ戦後には思わず感極まり、声を上ずらせながら次のような言葉を残していた。
「メディアのみなさんは今日のゴールを、おそらく奇跡と呼ぶかもしれない。何よりも今日という日を僕が迎えると、ここにいる方々のうち何人が思っていたのか、というのが僕の正直な気持ちです。いろいろな声を耳にしたし、目にしたし、あるいは感じることがありましたけど、それらを無視してやってきて本当によかったと思っています」
代表でも目立った成績を残していなかった浅野に対して、不要論が飛び交うことも珍しくなかった。サンフレッチェ広島在籍時の監督だった森保監督の愛弟子ということで、代表へ招集されるたびに「また広島枠か」と揶揄されたことも少なくない。
特に右膝に大怪我を負った昨年9月以降は、カタールW杯に間に合うかどうかわからない浅野よりも、同じくスピードを武器とする古橋亨梧(セルティック)を呼ぶべきだという声が高まった。それらのすべてを真正面から受け止めながら、浅野は自らにこう言い聞かせてきた。
「あの日にあれをしておけばよかった、というのはひとつもない」
究極の自己暗示、と呼べばいいだろうか。現実から逃げずに等身大の自分をとらえ続け、あとは上がっていくだけというポジティブな思考回路を浅野のなかで稼働させる。そこへ「やるべきことはすべてやった」という強い思いが加わった結果として、ドイツ戦での決勝ゴールに象徴される、土壇場での比類なき勝負強さを生み出す。
カタールW杯は決勝トーナメント1回戦でクロアチア代表に敗れた。延長戦を終えてもつれ込んだPK戦。1番手の南野拓実、2番手の三笘、4番手の吉田麻也がことごとく失敗したなかで、ただ一人、成功させたのは3番手を志願した浅野だった。