アンデスに暮らす人々は、大地の神である「パチャマンカ」を信仰し、土は神聖なものだと考えている。人々は1年の最後の収穫を終えると、土で作った窯の中でジャガイモや根菜を焼き、大地の神に捧げたあと、皆で分け合って食べる。「ワティア(Huatia)」と呼ばれるその料理について学ぶことが研修の目的だった。
驚いたのは、そこに暮らす人々の助け合いの精神と勤勉さだ。「アンデスの人々には、共有の意識があります。彼らが『アイニ』と呼ぶその互助的関係では、例えば、自分の家の屋根が壊れたら、近所の人が集まって直してくれます。それに金銭的なやりとりは存在せず、仕事のあとで地酒のチチャと料理を振る舞うだけ。逆に隣人が困ったときには、同じように手伝います」。
現地では、ワティアの調査といってもメモを取ったりする暇はなく、「働かないのなら、なぜそこにいるの」という顔で仲間として当然のごとく土の塊を渡されたという。「それくらい、皆で助け合うのが当たり前の文化なのです。私たちに今必要とされているのは、そんな共有と連帯の感覚ではないでしょうか」、とフェルナンデスはいう。
実際に、今年の世界のベストレストラン50でセントラルが世界一になった際にも、そんな連帯が感じられた。チームの一員として東京から授賞式に参加したフェルナンデスに、コロンビアやブラジルなど他の南米の国のシェフたちが「自分たちの誇りだ」と次々に声をかけていた。
「アンデス山脈がペルーのみならず、ベネズエラからチリに至るまで伸びるのと同じように、この世界一は、南米全体で受け取ったものです」
この快挙の背景には、歴史への深い考察がある。セントラルは、クスコから車で1時間半ほどの場所にあるモライ遺跡(インカ時代の農業研究所)のそばに研究所「ミル」を作り、多様な種の保存やアンデス文化の研究などを行っている。植物で言うなら根となる、創作の基礎がそこにあるのだ。
「世界一になったことで、これまでは珍しいものとされていた南米の食が、食の歴史の中で重要であることを示すことができました。ここから私たちがやるべきことは、連帯してその素晴らしさを世界に伝えてゆくことです。それぞれの文化を深く学び、地元の固有の食材や食の伝統を独自の形で表現する。地域と協働し、還元する。そんな考えの先進地域として、南米全体で発展していけたらと思っています」