「起業した95年は、阪神大震災や地下鉄サリン事件が起き、『人って、こうして死んでしまうこともあるのだから、何かやらなければいけないのではないか』という時代の切迫感みたいなものがあった。いまも、コロナ禍をはじめ、世の中が一変する体験を多くの人がして、同時に生成AIのような新しいテクノロジーが台頭している。95年当時のような『時代が変わる感』がすごくあると思います。いま、私が20代だったら、真っ先にその波に乗ったでしょうし、40代の経営者としても、乗ろうとしています」
要諦としての「事を起こす意思」
「インターネットが登場した時、20代だろうが、30代、40代だろうが、やった人とやらなかった人がいました。結局、やるタイプと、やらないタイプがいるので、やるタイプになったらいいんじゃないですかね。やらない理由を10個あげるより、やれる理由、やりたい理由を10個あげるような人生の方が楽しいんじゃないですか」川邊は大学などで講演に呼ばれれば、自身がツイッターに書いた回顧録を参加者に読んでもらい、事前に質問を集めるようにしている。そこで気になるのが、学生からのリスクに関する質問だ。
「『起業する当時、その後のリスクをどう考えていましたか』みたいな質問がたくさんくるんです。20代の人たちに一番伝えたいのは、そんなのないってこと。20代に、リスクなんてない。一方、40、50代になったら、リスクだらけ。家族がいる、家のローンがある。そうなると、なかなか何かできないですから(笑)。20代はリスクに対して、楽観的であれってことだと思いますよ」
川邊は、「挑戦」を考える20代には、「挑戦で何を実現したいか」を考えてほしいという。
「僕がインターネットでビジネスを始めたころは、情報技術を使って、世の中を変えられることに、何の証拠もなかったんです。でも、いまは情報技術で世の中を変えた事例が、数多くあるじゃないですか。例えば、Airbnb。ホテルを一軒も持たずに、世界一のホテルチェーンができてしまうわけです。実例があるわけですから、何をやりたいか、何を実現したいかに、こだわってやっていくことが大事だと思います」
川邊が20代に情熱を燃やしたスタートアップ。その回顧録の最後に、スタートアップの要諦として、川邊が第一に掲げたのは「ビジネスモデル」でも「マネジメント」でもなく「意思」であった。
「スタートアップにおいて何よりも重要なのは、その『意志』です。『起業』と書くぐらいですから、自ら意思を持って何かを起こさなければ、何も起きません。無です。私の場合は、95年に死生観を左右する色んな事件が起きて、同時にWindows95が発売され、そこに衝撃を受けて、『インターネットを使って何かやろう!』という意思を持って、事を起こし始めました。何よりもまず、『事を起こし、伸ばしていくんだ』という、何事にも怯まない強い『意思』が重要です。『意思』こそが、あなたの最大の強みなのです。私の周りの起業家達も、孫さんを筆頭として、類稀なる『強い意思』を持っています。ここだけは、全員、共通の様に思えます」
リスクに対して楽観的に、事を起こす強い意思を持つこと。それは、スタートアップに限らず、すべての若き挑戦者へのアドバイスであるといえるだろう。
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