塹壕掘削車の数は西側諸国よりも旧ソ連のほうが圧倒的に多かった。理由は土壌や気候から説明できる。
「ソ連の工兵や作戦立案者は明らかに、凍土を削って塹壕を掘ることに大きな重要性を認めていた」。米陸軍工兵隊は1980年の報告書でそう指摘している。「対照的に、北米の凍土での塹壕掘りはあまり行われてこなかった」
ウクライナに対するロシアの1年半におよぶ戦争の現在の局面で、塹壕が形勢を決めるものになることは十分予想できた。塹壕はロシア軍の教義で一貫して重視されており、ウクライナ軍もこの教義におおむね従っているからだ。
ロシアの旅団もウクライナの旅団も、一時的であっても防御態勢をとる場合は塹壕を掘る。「塹壕掘削機やブルドーザーの作業は昔ながらのシャベルで補完される。こうして兵員や装備の防護が整備される」。レスター・グラウとチャールズ・バートルズは、ロシア戦争様式論の決定版と呼ぶべき著作『The Russian Way of War(ロシアの戦争術、未邦訳)』でこう説明している。
塹壕づくりでは民間の請負業者も多くの仕事をするが、民間人を雇って軍人の仕事を代行させるのはコストが高いうえ、乗員の危険もともなう。実際、ロシアの請負業者は2022年末から2023年初めにかけて、ウクライナのドローン攻撃によって掘削機や操縦士を多数失っている。そのためロシア軍は即席の防空車両を前線に送り、作業中の民間業者の護衛にあたらせていた。
可能なかぎり、ロシア軍は民間でなく軍の塹壕掘削車両を用いてきたのだろう。ただ、前線で使用されている姿をとらえた映像は乏しい。昨年末には、東部ルハンスク州でBTM-3が塹壕を掘るところを撮影した動画がネット上に出回った。
ザポリージャ州でも、この見慣れない車両はせわしく動き回ってきたに違いない。それもロシア軍とウクライナ軍の双方で。
(forbes.com 原文)