日本の曖昧な対応が中国側にも揶揄される防衛省へのサイバー攻撃

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日本の防衛省が中国人民解放軍のハッキンググループによってサイバー攻撃を受けていたと指摘するニュースが、2023年8月7日付の米「ワシントン・ポスト」紙で報じられ、物議になっている。
 
記事は、2020年と2021年に米政府関係者が来日し、日本の防衛省や政府関係者に、防衛省の機密情報網に中国軍が入り込んでいる事実を伝えたという。しかし、然るべき対応がなされておらず、今後の両国間の情報共有に支障が出る可能性があるというものだった。日米関係に多大なる影響を与える記事である。
 
この記事に対し、松野博一官房長官は「サイバー攻撃により防衛省の秘密情報が漏えいした事実は確認されていない」と述べている。
 
しかし、中国軍がハッキングで防衛省のシステムに侵入したかどうかにについてはコメントしないとしている。もっとも、防衛省は自分たちで中国軍のハッキング活動を確認できていないので、情報が漏洩したかどうかは中国軍が発表しない限り確認はできないだろう。
 
そして、今回の騒動にからんでは、日本では中国軍の実力や日本のサイバーセキュリティの人材不足が議論になっており、筆者にもそうした問い合わせが少なくない。そこで本稿ではそうした議論について少し深掘りしたい。

防衛省へのハッキングは深刻な攻撃

2020年に日本の防衛省にこの問題を伝えに来たのは、当時、米大統領副補佐官だったマット・ポッティンジャーと、米サイバー軍の最高司令官でNSA(米国家安全保障局)の長官であるポール・ナカソネ陸軍大将だった。
 
ナカソネは、2018年5月にアメリカが誇る有能なハッキング軍団を擁するNSAの長官に就任している。米軍では、サイバー戦の計画立案を行うサイバー軍と、ハッキングなど通信傍受を専門とする情報機関NSAのトップは、同じ軍人が兼任することになっている。ちなみにナカソネは、近く退任する予定だ。
 
ナカソネはサイバーセキュリティ界隈でもよく知られた存在だ。サイバー戦争の世界に精通しており、例えば、2009年には米軍がイラン有事の際に実施するサイバー攻撃作戦「ニトロ・ゼウス」の計画に深く関わっていた。
 
この計画は、現在ロシアのウクライナ侵攻で話題の「ハイブリッド攻撃」であり、実際の軍事攻撃とサイバー攻撃を組み合わせる戦略だ。防空レーダー網や通信システムの機能を妨害したり、国内の電力網をサイバー攻撃して停電を起こさせたりするというものである。
 
そんなナカソネは、ワシントン・ポスト紙の記事が出たすぐあとに、米シンクタンクCSIS(戦略国際問題研究所)のインタビュー形式のイベントに登壇している。
 
イベントでは、インタビュアーからワシントン・ポスト紙の内容について少し言及はあったものの、ナカソネはその詳細に触れることはなかった。そもそも、機密情報である中国軍による防衛省のシステムへのハッキングついては公に話すことなどできない。
 
ただ、中国軍のサイバー部隊については言及している。ナカソネは、「中国軍の能力は高くなってきてはいる」と言っているが、「アメリカの実力には及ばない」と述べている。
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文=山田敏弘

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