欧州

2023.08.03 09:00

突然、中国と距離を置き始めるドイツの思惑

安井克至

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ドイツはこのほど、中国に関する新たな戦略を打ち出した。かつての友好的で配慮ある姿勢とはまったく対照的なものだ。極めて敵対的とまではいかないまでも、慎重かつ距離を置いているとしか言いようがない。米国は間違いなく、ドイツのこの方針は自国への追随とみるだろう。だが、かなりの妥協の産物である包括的なアプローチであることを考えると、このほど広島で開催された主要7カ国(G7)首脳会議を日本が導いたように、戦略を先導したのはドイツだったようだ。

ショルツ政権が策定した64ページにおよぶ戦略は、中国が変わったためドイツも変わらなければならないと主張している。中国は何十年もの間、国際貿易と国際金融を支配してきた「ルールに基づく国際秩序」を覆そうとしていると指摘している。

ドイツが打ち出した新たな姿勢は、中国が世界から自国を自立させると同時に、他国の経済が中国依存になるようにするという中国の狙いに抗うものだ。これらの目標とインド太平洋地域を支配しようとする中国の企みは、欧州と世界の安全保障に対する脅威だとドイツは主張している。

戦略では、中国は貿易「パートナー」であり続けるとの立場を維持しているが、中国の「体制上のライバ化」は「ますます顕著になっている」とも指摘。中国が「政治的目標を達成するために産業技術の依存」を利用し「文民および軍事の政策」を混ぜているとも非難している。

米国はトランプ政権以降、中国に対してますます不信感を募らせ、時には敵対的な態度を示している。タイミング的には、ドイツが米国に追随しているように見える。だがドイツが過去に米国の中国に対する敵意を批判していたことや、ショルツ首相がつい最近の訪中に企業の幹部らを同行させたことを考えると、ドイツの姿勢の変化は独自の判断によるものである可能性が高い。

この点では、ドイツの情報機関が最近になって、中国を「経済・科学面でのスパイ活動と対独直接投資に関する最大の脅威」と位置づけたことも注目に値する。統計局が最近発表した報告書では、貿易での中国の優位性の高まりが指摘されている。2022年のドイツの対中輸出はわずか3.1%増にとどまった一方で、輸入は33.6%増という驚異的な伸びを示し、1000億ユーロ(約16兆円)に迫る貿易赤字を抱えることになった。
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翻訳=溝口慈子

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