経済・社会

2023.08.16 07:30

日本の曖昧な対応が中国側にも揶揄される防衛省へのサイバー攻撃

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2023年5月、中国の政府系サイバー攻撃集団「ボルト・タイフーン」が、米軍を抱える米領グアムやそのほかの地域でもインフラを狙ってハッキングしていたことが報じられている。これについてもナカソネは「インフラに入り込むということは、情報収集が目的ではない」と述べ、有事などに向けた中国の妨害工作だったと示唆している。
 
そもそも、防衛省へのハッキングも、中国軍が機密システムの内部に入り込めていたとすれば、破壊も可能である。サイバー攻撃では、システム内部に入ることができれば、あとは情報を盗むことも、すべてのデータを消し去ることも、システムを破壊することも可能である。要は、相手側の動機次第なのだ。そう考えると、防衛省内部へのハッキングがどれほど深刻な攻撃なのかわかるだろう。

給料で人員確保はできない

さらに、今回のワシントン・ポスト紙の記事に対する日本の反応としては、自国のサイバーセキュリティ人材の不足を指摘する声も上がった。これでは防衛省のシステムを守れないのではないかと。
 
それは防衛省も以前から認識していて、徐々にサイバー関連の人員を増やしており、5年で現在の890人から4000人にする計画を明らかにしている。だが、ただでさえ自衛隊の応募人数が年々減少しているなかで、この人員確保は容易ではないだろう。
 
さらに議論のなかには、人員不足の原因を「給料が低いから」と指摘をする人がいる。ところが、現実には、給料をある程度増やしたくらいでは人員は増えないし、防衛レベル向上に寄与するとも思えない。
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 例えば、世界で最強レベルのハッキング集団が在籍するNSAを例に挙げると、彼らの給料は、2021年の数字で、年収約5万5000ドルから14万3000ドルほどである。米軍のハッカーたちは公務員なので、給料は法律で定められている。赴任地によって多少の上下はあるが、それほど給料は高くないのが現実だ。
 
筆者は取材などを通してこれまで実際にNSAなどの関係者らと接してきたが、彼らはまず愛国心が強い。そして、いい給料を望むなら民間に移ればいいという感覚である。NSAなどでサイバー戦の最前線にいた経歴が民間での高給職につながるからだ。
 
ただ、米軍の最新ツールを使って、サイバー空間で戦うNSAで国のための働きたいという凄腕ハッカーも多い。
 
サイバー戦で世界から一目置かれるイスラエルのサイバー部隊「8200部隊」も、月給は2000ドルから5600ドルとされている。ただ8200部隊の出身者は、そこでの経験を活かして民間へと転じ、世界に誇るようなスタートアップ企業を立ち上げるケースが非常に多い。
 
日本とは根本的に環境と考え方が違うのだ。人材を確保するには国防の考え方から議論していく必要があるのはないだろうか。
 
今回のワシントン・ポスト紙の記事への日本政府の反応は、中国側もじっくりと見ているはずだ。中国共産党系の英字紙「グローバル・タイムズ(環球時報)」は、こんなタイトルの記事を掲載した。
 
<中国人ハッカー事件に対する日本の生ぬるい反応は、インド太平洋戦略における米国との協力に消極的であることを示唆していると専門家は指摘>
 
そして記事では、遼寧省社会科学院の東アジア研究専門家ルー・チャオが「『(ハッキング)事件』は、またアメリカによって演出されたドラマに過ぎず、真の目的は中国を中傷し、緊張を生み出すことである」と主張していると書いている。
 
中国軍によるハッキングが指摘されても日本の対応は曖昧で、中国側に揶揄される始末だ。いまだに人材不足の議論で足踏みをしている日本のことも、中国はじっくりと見ているだろう。今回の件はきちんと調査を行い、批判されるべきは誰なのかをしっかりと見定めたほうがいいではないだろうか。

文=山田敏弘

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