核戦力の一元管理が機能しなくなる
西側の軍事計画立案者の間では、ロシアは核戦力を厳重に統制していると長らく想定されてきた。しかし核の指揮統制システムに関する技術や要員訓練の質もまた、ロシア軍のほかの側面と同様に劣化している可能性がある。これはとくに、ロシアが東欧方面に配備している戦域核システムや戦術核システムについて言える。これらの兵器の多くは道路移動型なので、現地の指揮官たちに管理を任せなくてはならないが、彼らは非常事態への対応方法についてそれぞれ自分の考えを持っているかもしれない。ロシアに分別があるのなら、差し迫った交戦のために警戒態勢が敷かれているのでない限り、これらのシステムに核弾頭は搭載していないだろう。だが、ウクライナはまさにこうした「差し迫った」事態をもたらす可能性がある。
核兵器の管理を現地の指揮官に委ねる正式な手続きがどうなっているにせよ、この戦争でのロシア軍のお粗末さからすると、無許可での使用、さらに言えば軍事演習での偶発的な使用が絶対にないという保証はない。
プーチンが過激なナショナリストによって退陣させられる
ウクライナでの戦争はロシアの政治文化において過激なナショナリストに発言の場を与えることになっており、彼らはロシアが勝利する方策としてしばしば核兵器を持ち出す。プーチン自身、ナショナリズム感情を利用してきたわけだが、ワグネルのリーダー、プリゴジンが先ごろ起こした反乱は、それには危険がともなうことを示している。もしプリゴジンや同類の人物がロシアの核兵器の一部を奪おうとしたらどうなるだろうか。そうした人物が、軍の指導部と結託してプーチンの排除に動き、より「決然」とした指導スタイルをロシアにもたらそうとしたら? こうした事態が起きればロシアの状況は一気に不安定するので、西側諸国はプーチン政権を違った目で見るようになるかもしれない。
こうした話は空想に聞こえるかもしれない。だが単純な事実として、ロシアの政治システムの内情は西側からはほとんどうかがい知れない。したがって、西側の軍事計画立案者はさまざまな危険の可能性について検討しておく必要がある。ロシアがウクライナで核兵器の使用に踏み切れば、ホワイトハウスは「いま何をするか」という問いに即座に答えを出すことが求められる。
(forbes.com 原文)