政治

2023.08.05 08:30

原爆投下から78年。置き去りにされた原爆被害者の真実

田中友梨

「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」に参拝する日韓両首脳

8月6日、広島は「被爆78年」を迎える。

今年は、5月にこの地で先進7カ国首脳会議(G7サミット)が開催された。各国首脳が揃って原爆慰霊碑を訪問するなど「核なき世界」に向けた動きもあり、岸田文雄首相は「歴史的なサミット」と成果を強調した。

ただ、広島を拠点に被爆者の取材を続けてきた筆者としては、「ヒロシマ」が大切に守り抜いてきた声とは乖離したメッセージが発せられた、とも感じていた。

例えば印象的なシーンの一つに、日韓両首脳による「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」の参拝があった。両首脳による訪問は初めてのことで、主要メディアも「平和への一歩に」などと好意的に報じた。

だがこれを、「核廃絶からは遠ざかった」と見る在日コリアンの被爆者がいる。朝鮮民主主義人民共和国(通称「北朝鮮」)の原爆被害者を支援し続けてきた男性だ。

「あの慰霊碑は朝鮮半島出身者の全員を弔うものではなく、北朝鮮側の被爆者は放置されたままなんです」

日韓首脳の「結束」を示した慰霊碑参拝の功罪を、朝鮮人被爆者の視点から考える。



亀を形どった台座の上に、碑柱が立つ。

「韓国人原爆犠牲者慰霊碑」と書かれた黒い石は、初夏の太陽の光を浴びて存在感を放っていた。広島市の平和記念公園内にあるこの慰霊碑は、強制労働などによって広島で被爆した「韓民族」を慰霊するため、1970年に建立された。
 
G7広島サミット最終日の5月21日朝、岸田文雄首相と韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は、夫人を伴って同碑を参拝。そろって花を手向け、黙とうをささげた後に両首脳は握手を交わした。

その後の首脳会談で、岸田首相は「日韓関係にとっても、世界平和を祈る上においても、大変重要なことだった」と表明。日韓で緊密に連携し、北朝鮮に対応していくと確認した。
 
2023年5月21日、広島市で行われたG7での岸田首相と韓国の尹大統領 / Getty Images

「感無量」「夢のよう」。日韓の主要メディアは、歓喜する韓国人被爆者の声を取り上げた。しかし、献花のシーンをテレビで視聴していた在日朝鮮人被爆者の金鎮湖さん(77)は、むしろ憤りを感じていた。

「あの慰霊碑は、あくまで韓国人被爆者を弔うためのものです。原爆が投下された当時は一つの国だったのに、朝鮮半島出身者全員を対象にした碑はない。北朝鮮の犠牲者は、今も置き去りにされているんです。日韓両首脳による訪問は、核廃絶や南北統一の実現からむしろ遠ざかるものだと感じました」
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文=小山美砂

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