ウクライナがロシアの中核的な利益を脅かす
ウクライナは徐々にロシア国内の目標に対する攻撃を強めている。もしこうした作戦によって政府施設や経済インフラに大きな損害が出始めれば、ロシアの伝統的な核ドクトリンに従った核による報復を招く可能性がある。西側諸国は、プーチンとその取り巻きがロシアの中核的な利益をどう定義しているのかを正確に理解しているわけではない。また、彼らの現在の考えがどのようなものであっても、戦況次第で変わる可能性がある。たとえばウクライナ南部クリミア半島はロシアが9年前に一方的に併合したばかりだが、そこへの「侵攻」はロシアの中核的な利益を脅かすものと判断されるかもしれない。ロシアによる限定的・局地的な核使用の可能性は、ウクライナ側に同様の仕方で反撃する能力がないことで高まっている。
ロシアが軍事的なシグナルを読み誤る
戦況がロシアとって不利になるほど、プーチンのインナーサークルは心理学でいう「包囲の心理(siege mentality)」に陥っていくだろう。これは恐怖にとらわれ、冷静な思考ができなくなる精神状態を指す。こうした状態になると、あまり出来のよくないインテリジェンスシステムから軍事行動に関するあいまいな兆候が上がってきた場合に、拙速な対応をしてしまうことは十分考えられる。旧ソ連には過去に情報を誤って解釈した事例がある。米シンクタンク、ランド研究所のアンソニー・バレットは、北大西洋条約機構(NATO)が1983年に実施した軍事演習「エイブル・アーチャー」をソ連指導部が核攻撃の偽装と誤解した一件について、リポートで論じている
実際の戦争が起きていない際にもこうした事態は発生した。現在はロシアとウクライナが激しい戦いを続けているさなかであり、誤解が生じる可能性はもっと高くなっている。モスクワは、ウクライナ国外でも作戦行動を実施する可能性がある戦術航空機が目標にできる範囲内にある。