ヘルスケア

2023.08.08 14:00

抗老化ホルモン「クロトー」投与で記憶力向上の可能性、動物実験で示唆


通常程度の記憶力が必要な課題は、単純なものだ。サルは4つのたて穴を見せられ、そのうちの1つに餌のヒントがあった。しばらくすると、スクリーンが下り、穴が見えなくなった。スクリーンが上がると、サルはヒントがあった穴に手を伸ばし、餌を取り出すことができる状態に置かれた。

高い記憶力が必要な課題では、穴の数を増やし、スクリーンが下りてから上がるまでの時間も長くした。これらの課題の成績を基に、サルたちの認知機能のベースラインを測定した。

この実験の後、注射のストレスに慣れさせるため、すべてのサルに偽の注射を打った。それから2週間かけ、サルたちは再び同じ2種類の課題を行った。結果、成績は最初のベースラインと変わらず、注射そのものが認知機能に影響することはないと確認された。

最後に、サルたちは合成されたクロトーの注射を受けた。すると、チームの予想通り、どちらの課題でも、クロトーを投与されたサルの成績は有意に改善。2週間以上にわたって、対照群より優れた結果を出し続けた。クロトーの効果は、即効性がある(注射後4時間以内)上、長く持続するとみられ、長期記憶を増強する可能性が示唆された。

10µp/kgという低用量で認知機能に大きな効果があったことから、研究チームは、用量を増やせば学習と記憶の能力がさらに高まると推測し、さらなる実験を行った。ところが驚くことに、用量を2倍や3倍にしても、成績が伸びることはなかった。生涯を通じて自然に生成される量以上のクロトーを投与されると、シグナル伝達システムが阻害され、むしろ認知機能が損なわれる可能性がある。

この実験により、クロトーの補充が、加齢に伴う認知機能の低下を食い止め、さらには逆転させる可能性が示唆された。しかし、このホルモンが体内で果たしている役割については、現在も研究が続けられている。

クロトーは血中を循環することで、老化の顕著な特徴である酸化ストレスと炎症を軽減することが示されている。クロトーが体内で果たすさまざまな役割を解明することは、長寿の鍵を握る可能性がある。

forbes.com 原文

翻訳=米井香織/ガリレオ

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